LOGIC MAGAZINE Vol.05
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今、読者の皆さんと一緒に考えたいと感じた
ホットなトピック
「ラー油つけそば」に見るフードデリバリーとUX
ステイホームの影響もあり、すっかりフードデリバリーが定着してきた。気がつけば、僕も週に何度もUber Eatsに頼っている。今年だけでも100食くらいは注文したかもしれない。先日、「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」というラー油つけそばのユニークな提供容器や美味しい食べ方にえらく感動していたら、自分以外でもtwitterで感動したという声を数多く発見した。それを通じ、フードデリバリーサービスを常用するようになってから、“出前”の時代とは違ったデリバリーフード観が築かれつつあることに気づく。その違いとは「UX」ではないだろうか。
ひと昔前の“出前”にはある程度フォーマットが存在し、いちいち期待を大きく上回ったり、下回ったりすることが少なかったように思う。一方で、フードデリバリーが台頭してから、店舗を持たないレストランが登場したり、本来出前に不向きとされていたジャンルの料理までがデリバリーできるようになった。その結果、提供の仕方にばらつきが生じることになり、味と同じくらいに提供のされ方、具体的には、容器や包装、食べる手順の仕立て方がユーザーの満足度を左右することになってきている。もっというと環境に配慮した包装だとか、お礼の直筆メッセージなんかもひとつの要素だ。
声も顔も見えず、お店と無関係の配達員から届けられた料理、そこには、開封後のワクワク感、作り手のホスピタリティやおいしく食べてもらうことへの工夫、また注文したくなる読後感、その1連のUXすべてがデリバリーフードを構成している。つまり、おしいものを単純にテイクアウトする感覚から、お店の料理とは別のデリバリーフードという独自のジャンルに昇華しつつある。
味だけでなく、UXの重要性に着目して磨き上げることが、今後フードデリバリーサービスにおいての名店の条件になっていくのではないだろうか。(佐々木智也)
LOGIC | PEOPLE
第一線で活躍するプロフェッショナルの体験や知見から
パフォーマンスアップにつながるヒントを学ぶ。
005
STRIVE代表パートナー
堤 達生氏
LOGIC MAGAZINE第5回インタビューは、ベンチャーキャピタルファンドSTRIVE代表パートナー堤達生氏。ベンチャーキャピタリストとしてさまざまな起業家たちと接する堤氏にとって、夢中になれるものとは? 起業家との関わり方や自身が投資を決める判断軸なども併せて伺った。(聞き手:LOGIC MAGAZINE編集部 佐々木、村上)
起業家のパートナーとして並走したい。
そして、自分自身も一緒にワクワクしたい。
ー堤さんが夢中になっていることは何かを考えたとき、真っ先に浮かんだのが「起業家」でした。どうして起業家のサポートをしたいと思ったのでしょうか?
堤:それはきっと、僕自身がベンチャーキャピタルを始める前に、サイバー・エージェントやリクルートといった会社で事業を立ち上げるポジションにいたことが大きく影響していると思います。投資家のなかには、お金だけ渡して後は静観している場合もあると思うんですけど、僕はそれだけじゃ満足できなくて。起業家のパートナーとして並走したい気持ちが強いというか。STRIVEが投資する企業のほとんどはアーリーステージなんですが、それも僕自身が起業家のアイデアを一緒にブラッシュアップしていく過程が特に好きだからなんですよね。もちろんベンチャーキャピタルなので、最終的には投資家に利益を還元しないといけないのですが、それはあくまで結果でしかないというか。
ーSTRIVEにはさまざまな起業家が訪れてくると思うのですが、どういった判断基準で投資先を選定しているのでしょうか?
堤:僕自身が課題だと思っていることに起業家が取り組もうとしているかどうか、それに尽きます。お互いに課題を共有し、創りたい世界観が一致するかをとても大事にしているんです。だから、すごく儲かりそうなアイデアを持っている投資家に出会っても、僕がワクワクしない事業には投資をしていなくて。本当は、この人に1億円投資しておけば間違いなく10億円になる! みたいな事業に投資すべきなのかもしれないんですけど。でも、それだけだと興味をそそられなくて。むしろ、将来どうなるのかわからない事業に対して、どうやったら勝ち筋が見えてくるのかを起業家と一緒に考えるのが僕やSTRIVEの特徴であり、こだわりでもあると考えています。
ー堤さんの体がもうひとつあったらコミットしたい事業に投資している感覚なのでしょうか。
堤:そうですね。たとえば、投資先のひとつにポジウィルというキャリアのパーソナル・トレーニングに取り組んでいる企業があるのですが、それも世の中がますます不確実・不透明になっていく中で、不安を抱えながら生きている人たちがどんどん増えているし、そういう人たちに並走してくれる存在が必要なんじゃないかと考えていたタイミングで、代表の金井芽衣さんと出会ったことがきっかけでした。そうやって自分の中で何かが引っかからないと投資をしたくならないんです。これは僕にとっての強みであり、弱みでもあると思います。
起業家をどうサポートするかを考えるのもキャピタリストの役割
ー経営者と伴走するということは、良いことだけでなく、悪いことも共有することになりますよね。そうしたネガティブな状況に立たされた起業家に対するケアはどのようにしているのでしょうか?
堤:会社のステージによって全然違うんですよね。アーリーステージであれば、ビジネスモデルを振り返って、何がボトルネックになって事業がうまく回っていないのかを考えます。もう少し成長したグロースステージの企業だと、今度は人間関係にまつわる問題が多くなります。
ー30人の壁、100人の壁と言われるものですね。
堤:よくありがちなのは、人が増えていく中で創業メンバーと中途メンバーに軋轢が生まれるケースです。そういうときは、「この会社はどういうふうに成長していくのか」というストーリーをメンバーと一緒に考えて作り込んでいきます。僕たちはキャピタリストなので、投資先の企業とうまく連携を取りながら、彼らの課題をいかに早く解決できるのかを考えて接していますね。
起業家以外でこんなに面白い仕事はない
ー実際のところ、起業家の何がそんなに堤さんを夢中にさせるのでしょうか?
堤:この仕事を通じていろんな人に出会えるし、投資した先の起業家たちが成長していく。そういう得難い経験ができるからこそ長く続けられるし、結果的に夢中になれるのかなって。どんなに優秀な起業家も最初は何者でもないんですよね。みんな、単なる若者。でも、いろんなことを経験していくうちに、いつの間にか立派な経営者になっていく。その過程を間近で見られるのが、この仕事の醍醐味だなと感じています。
ー何か記憶に残っているエピソードはありますか?
堤:ある起業家から「何者でもなかった僕を経営者にしてくれたのは堤さんです」と言われたことがあって、それはすごく嬉しかったですね。「僕が経営者に育てた」なんて偉そうなことは言えないんですけど、自分たちのサポートがきちんと実を結んでいるんだなと実感することができました。だから、起業家以外でこんなに面白い仕事はないんじゃないかなって思いますよ。
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堤達生さんの仕事のパフォーマンスアップのためのルーティーン
「パーソナルトレーニングとピラティス」
歳を重ねていく中で、仕事でパフォーマンスを最大限に発揮するためには体調管理が大切だと考えるようになりました。そこで現在は、パーソナルトレーニングとピラティスをそれぞれ月に6回ほど行っています。特にピラティスの方は、『鬼滅の刃』じゃないですけど、呼吸がすごく大事で(笑)。緊張状態になると呼吸が乱れると思うんですけど、そういうときに呼吸のリズムを整えると精神的に安定するんです。あとは姿勢。僕はもともと腰痛持ちで、以前はマッサージに通っていたのですが、それだと対処療法にしかならないからピラティスに通うことにしたんです。呼吸と姿勢のバランスを整えることで、仕事に取り組めています。
堤達生さんおすすめのワークツール
「高濃度ビタミンC」
ワークツールと言うかわからないのですが、定期的に高濃度ビタミンCの点滴を打っています。これが昭和だったら「男がなんで?」と言われている気がするのですが、もうそういう時代じゃないし、男がアンチエイジングに気を遣ってもいいと思うんです。特にベンチャーキャピタルの仕事はある意味では接客業なので、外見に気を遣って損はないはず。肌は汚いより綺麗な方がいいだろうし、きちんとした身なりの方が相手の印象も良いと思うんです。同じ1億円でも身なりがしっかりしている人から投資を受けた方が相手も安心感があるだろうし。それに自分の美意識を高めておくと、精神を良い状態にキープできるんです。昔は忙しくなると自分のことをおざなりにすることがよくあったのですが、そうするとテンションが下がって仕事のパフォーマンスも明らかに落ちていました。仕事をするうえでも、清潔で健康的でいることはとても大事です。そういう価値観が広がっていけば、この国はもっと豊かになるんじゃないかなと思っています。
LOGIC | CULTURE
本号から新連載!教養としてのカルチャーを楽しみながら学ぶ。
illustration: Nobuko Uemura
「スキンケア映画学」第1回
『007 スカイフォール』
どんなときにこそ、男はしっかりと顔を洗うべきか。『007 スカイフォール』の主人公ジェームズ・ボンドならば、「復活(Resurrection)」のときと呟くに違いありません。「復活」とは本作におけるラスボスに、「趣味は?」と問われたボンドが答えなのですが、それが洗顔とどう結びつくのでしょうか。以下、詳しく見ていきましょう。
ご存知の通り「007」とは、肉弾戦にも仕立てのいいスーツを纏って挑み、誰とでもウィットに富んだ会話を交わし、女性たちをすべからく丁重に扱う……ジェントルマンの理想像を体現する英国諜報部員ボンドの活躍を描くスパイ映画シリーズです。『スカイフォール』はその23作目に当たり、ダニエル・クレイグがボンドを演じています。
なんですが、この『スカイフォール』、シリーズ屈指と言っていいほど幕開けが穏やかじゃありません。なんせ開始早々、トルコを走る列車のルーフトップで敵と戦っていたボンドは、誤って味方に撃たれて川に落下してしまうのですから。ボンドの所属する英国諜報機関「MI6」も彼の死を認定するのですが、それで「THE END」となったのでは短編映画程度の尺にしかなりません。実はボンドは生きていて、僻地の島で悠々自適なバカンスのときを過ごしていたのです。「どうなんだろう?」と不安になるのは、ここでのボンドの顎まわり。ジェントルマン失格と言っていいほど、無精髭が生えまくっているのではありませんか。ここまで身だしなみに無頓着なボンドは、「007」史上初でしょう。
以上のスキンケア的な視点から見ると、なんやかんやあって英国に帰還し、「MI6」に再入部するボンドが、ボスであるMにまず言われる一言が興味深い。こう言われるのです、「シャワーを浴びなさい」と。ジェントルマンの「MI6」諜報員たるもの、身だしなみはきちんとしろと指摘しているかのようです。とはいえ、彼はしばらく無精髭を剃らないままなのですが……。
では、ボンドはいつ洗顔して無精髭を剃るのでしょうか。いよいよ本格的な諜報活動を再開する段階に入ったときです。そのとき、彼はシャワーを浴び、顔を洗い、髭を剃るのです。そのように身だしなみを整えることで、スパイとして「復活」し、ラスボスをやっつけるのです。
注目すべきは、その髭剃りがカミソリで行われていることでしょう。立ち会った同僚は「トラディショナルなもの使ってるね」と呟くのですが、ボンドは「ときにはトラディショナルなほうがいいもんだ」と答えます。ネタバレになるので詳述は避けますが、実はこのやりとりは、最終的にボンドがいかにしてラスボスを倒すかにも繋がっています。本作では、ジェントルマンたるもの、スキンケアをしっかりした上でなければ仕事はできないし、そのスキンケアの方法自体がラスボスを倒す方法にも繋がっていることが示されているのです。
バカンス後、いかにして社会人として「復活」するのか。その「復活」に際して、洗顔がその方法も含めてどれだけ重要な位置を占めるのか。『スカイフォール』は、諜報部員でなくともあらゆるビジネスパーソンの抱える問題に対して、最適解を示してくれているの作品だと言えるのではないでしょうか。
鍵和田 啓介
1988年生まれ、ライター。映画批評家であり、「爆音映画祭」のディレクターである樋口泰人氏に誘われ、大学時代よりライター活動を開始。現在は、『POPEYE』『BRUTUS』などの雑誌を中心に、さまざまな記事を執筆している。
(この記事は2020/12/01にNewsletterで配信したものです)