LOGIC MAGAZINE Vol.38

LOGIC MAGAZINE Vol.38

LOGIC | PEOPLE


第一線で活躍するプロフェッショナルの体験や知見から
パフォーマンスアップにつながるヒントを学ぶ。


038
小説家
小泉綾子氏

LOGIC MAGAZINE第38回インタビューにご登場いただくのは、小説家の小泉綾子氏です。2022年に『あの子なら死んだよ』で第8回林芙美子文学賞の佳作に輝き、続く2023年には『無敵の犬の夜』で第60回文藝賞を受賞。今後の活躍が期待される状況で、次作の執筆に励む小泉氏の“夢中”に迫ります。(聞き手:LOGIC MAGAZINE編集部 佐々木、村上)

 

夢中になれるものが見つからない!
文藝賞受賞作家の静かな苦悩


―第60回文藝賞に選ばれた『無敵の犬の夜』は、北九州の治安の悪いエリアにあるホテルに篭って5日ほどで書き上げたそうですね。

小泉:はい。もう勢いで。

―もともと映画監督を目指していたそうですが、小説家として活動している自分のことをどのように捉えていますか?

小泉:自分でも不思議に感じることがあるんですよね、なんで小説を書いているんだろうって。ただ、私は嫌がったり逃げたりすることも多いんですけど、文章を書くことに関しては昔から抵抗なくできていたんですよね。過去に銀座の高級クラブのママのブログを代筆したり、ある政治家のSNSを運用したりしていたことがあるのですが、評判もそこそこよかったですし、あんまり苦労した記憶もなくて。

―自分とかけ離れた属性の人を描くことに長けているのかもしれないですね。『無敵の犬の夜』は、主人公が中学生男子ですし。

小泉:実はそれも、ある方から「男の子が主人公の物語を書いてみたらどうか」と提案されたの受けて書いたものなんですよね。

―それで「思春期真っ只中のイキった中学生男子」というキャラクターにたどり着いたのは面白いですね。

小泉:私、なんというか、自意識が過剰な人に惹かれるんですよ。無茶して、暴走して、転んで、それでも起き上がっていく姿を見ると応援したくなるんです。「この人、ここからどう変わっていくのかな?」って。

―人の変化が気になる?

小泉:そうですね。おそらくですが、私自身が変化の多い人生を歩んでいることも関係していると思います。家庭の事情で東京から北九州の田舎にある公立学校に転校することになり、価値観が崩れるような出来事がたくさん起きたんです。あげたらキリがないんですけど、たとえば制服を改造して絵に描いたようなヤンキーの格好をする人がいたり。それまでドラマでしか見たことがなかった世界が目の前に広がっていました。親から過保護なくらい大事に育てられてきたので、かなりの衝撃だったんです。私の作品に登場する人物についても、そういうインパクトの強さみたいな要素があるんだと思います。

 

知識がなくても、まずは自分でやってみる精神

―小泉さんの興味が創作に傾いたのはどんなきっかけがあったんですか?

小泉:学生の頃から自分の考えていることをかたちにするのは好きだったんですよね。だから、学級新聞とか交換日記とか大好きでした。ただ、誰かと協力して何かをつくることが苦手で。外から干渉されるのがすごく嫌なんです。たまに「みんなで一緒にやりませんか?」と打診されることもあるのですが、一人でやりたい気持ちのほうが強くて。

―自分のペースで動きたいんでしょうね。

小泉:そうなんです。だから、知識がなくてもまずは自分でやってみるようにしています。

―DIY精神が強いんですね。確かZINEも一人で制作していますよね。これまで「松方弘樹」「河村隆一」「ホリエモン」などを題材にされていますが、どういった理由から?

小泉:多くの人が気づいていない彼らの魅力を伝えたい気持ちが強くあります。「これは私が伝えなかったら誰が伝えるんだ!」っていう衝動が止められなくなるというか。たとえば、松方弘樹さんは「松方弘樹って誰かが演技してるときはまったく動かないよね」と友人が何気なしに放った言葉がきっかけになっていて。私、任侠映画が大好きで、『仁義なき戦い』はDVDボックスを持っているくらいなんですが、友人に指摘されるまでは松方さんのことを「少しエキセントリックなおじさん」くらいの感覚でいたんです。でも、松方さんが出演されている作品を観ているうちに、とても魅力的な人物だと気づかされて。それでZINEに収めようと考えました。

―河村隆一さんへの興味も似たような感じですか?

小泉:そうですね。河村隆一さんも当初はまったく興味がなかったんですけど、LUNA SEAを休止していた時期の映像を観て気になる存在になり、ヤフオクやメルカリで過去の雑誌を集めて読み漁るようになりました。初対面の人に河村さんの話ばかりしていた時期もあります(笑)。あるときソロコンサートに足を運んでみたら、5時間近く歌い続けたうえで「もっと歌が上手くなりたい」と笑顔で話しているんですよ。その向上心に感動してZINEにしてみました。

―ちなみに、新たに注目している人はいるんですか?

小泉:実は新しいZINEをつくろうとしていて、テーマを探しているところなんです。本当はTOKYO ART BOOK FAIRにも出展したくて。少し毛色が違うから出展できるかわからないんですけれど(笑)。

 

今は充電期間。夢中が湧き上がるのを待っている

小泉:今は次に何を書くかを模索している最中ですね。このインタビューのテーマは「夢中」だと伺っているのですが、新たに夢中になれるものを探しているのが今なのかなって。

―小泉さんは瞬発力の高さを活かして物語を書いている印象が強いのですが、『無敵の犬の夜』を短期間で書き切ったときは少し様子が違うということでしょうか?

小泉:『無敵の犬の夜』を短期間で書き切ったときは、何を書けばいいのかが最初から最後まで頭の中で見通せたんです。でも、今は少し状況が違っていて。

―何か思い浮かぶ違いはあるんですか?

小泉:ひとつ大きな変化があるとすれば、子供が産まれたことでしょうか。出産前は好きなだけ自分の時間を使えたので、ふとした瞬間に旅行に出かけたり、小説を書くためにホテルに篭ったりすることができていました。でも、子供が産まれてからは自分の時間に制限ができたので、なかなか自由に動くこともできないし、以前のように自分を駆り立てるような感情がなかなか湧いてこないんです。これまで創作活動に没頭できたのは、自分の時間がたっぷりあったからなんだなって最近つくづく思います。

—もしかしたら、スタイルを変えるタイミングに差し掛かっているのかもしれないですね。

小泉:そうかもしれません。今は充電期間のような気もしていて。夢中が湧き上がる瞬間を待っている状態なんじゃないかなって。夢中って自分の内側から湧き上がるエネルギーがないと成立しない気がするんですよ。だから、この機会にいろんなことを吸収しながら、コンディションが整うのをじっくり待とうと思います。

 

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小泉綾子さんのパフォーマンスアップのためのルーティーン 


「町田 康さんの直筆サインを見る」

大好きな町田 康さんからいただいた直筆サインです。このサインを見ると「自分にはまだ頑張るべきことがあるんだ」と奮い立つことができます。

 

小泉綾子さんのおすすめのワークツール


「お香」

小説家の安堂ホセさんからいただいたお香をたまに使っています。なんだか高貴な匂いがして、やる気がみなぎってくるんです。

「スピーカー」

私にとって音楽はなくてはならない存在です。かつてレコード屋でバイトをしていたこともあります。最近のお気に入りはKOHH(千葉雄喜)とビリー・アイリッシュ。音楽をかけることで、自分のなかのスイッチが入るんですよ。

 

 

LOGIC | CULTURE


教養としてのカルチャーを楽しみながら学ぶ。


「語りたくなる手みやげ」第5回

『小嶋総本店 米糀のあまさけ』 

 「飲む点滴」といわれるほど、ブドウ糖やアミノ酸など栄養豊富な飲み物、甘酒。酒粕で作った神社の振る舞い酒だったのも今はむかし。2011年頃からの塩麹ブームに引っ張られるような格好で、甘麹、すなわち麴でできた甘酒も、再評価を受けるようになり、2017年は甘酒の第1次ブームとなりました。スーパーに大手酒造メーカーの甘酒がコンスタントに並ぶようになったのも記憶に新しいのではないでしょうか。その後、販売金額は緩やかに下降線をたどりますが、23年から持ち直し、今年2024年は甘酒ブーム再燃の年と見る向きもあるようです。背景には、金額の持ち直しの他に、フルーツ入りなど甘酒の種類が多様化してきたこと、海外への輸出が拡大しつつあることが挙げられます。

 甘酒復権の約10年をざっと振り返ってみましたが、皆さんの甘酒生活はいかがでしょうか? すでに、お気に入りのメーカーはありますか? 好みの米麹を使って手作り甘酒を楽しむ発酵生活上級者もいるかもしれません。私は、一時期、大手メーカーの甘酒から小規模の酒蔵が手がける甘酒まで何種類も試し、牛乳代わりに飲んでいた時期もあるほどはまりました。味わいに違いはあれど、どのメーカーもおいしく飲んでいましたが、やはり気になるのが甘み。自分には少々甘さが強く、レモン果汁で酸味を加えるのが定番の飲み方でした。ちょうどいい甘味と酸味とさらさら飲める心地よい粘度の甘酒を探していて出合ったのが、フルーツ入り甘酒の先駆けともいえる「小嶋総本店 米糀のあまさけ」です。

 2021年に登場したこちらの甘酒がユニークなのは、山形県産米を100%使用した米麹の甘酒と、野菜や果物のスムージーを組み合わせた点。見た目も華やかなベリーの色に惹かれて手に取った「beauty up red」を飲んだときは、今までの甘酒とはまったく異なるなめらかさと甘酸っぱさに驚き、あっという間に飲み干してしまいました。自社で原料の野菜やフルーツをミキシングしているためか、食感はフレッシュで素材感を残しつつどこまでもスムーズ。甘酒に加えたいちご、ブルーベリー、ラズベリー、ビーツにレモンの味わいのバランスの良さにも唸りました。副原料に使用したベリー類はビタミンの摂取や抗酸化作用、ビーツは血の巡りの改善を意識しているそうです。



 甘酒ベースのスムージーはベリーも含めて全部で3種類。かぼちゃ、みかん、にんじん、ショウガを加え、元気が出る黄色の「warm up yellow」は、ベータカロテンは風邪対策などが期待でき、風邪のひき始めに温めて飲んでもよさそう。野菜不足を感じたら、グリーンの「wake up green」がおすすめ。りんご、キウイフルーツ、ケール、小松菜、レモンに加えて、米沢藩時代に食用と垣根の機能を兼ね備えるとして栽培を推奨された「うこぎ」(漢方では強筋骨、強壮作用があるといわれる)の粉を入れたところに、安土桃山時代に創業した日本酒蔵ならではの矜持が見え隠れします。



 400年以上の歴史をもつ「小嶋総本店」は、銘酒「東光」でも知られ、国内外のコンペティションで数々の受賞歴を誇ります。現在の24代蔵元・小嶋健市郎さんにとって、麹の甘酒は離乳食だったそうで、身近な食べ物でした。小嶋さんの妻・千夏さんは、出産を経て、「身体によく、子供も安心して飲めるものを酒蔵でつくりたい」と思うようになり、フルーツ入り甘酒の開発に至ったそうです。

 



 今年の酷暑の影響で、体力がまだまだ本調子ではない方も多いことでしょう。でも、日々忙しくてあまりケアできない。そんな方へ、味も栄養も抜群、さらに、パッと手に取りやすいパウチタイプの甘酒は、まさにオフィス向けの差し入れの決定版なのではないでしょうか。新米も出揃い、日本酒の蔵では仕込みが始まるこの季節。私たちの主食である米を「飲む」ことについて、ほんの少し思いをはせる絶好のタイミングでもあるのです。

米糀のあまさけ「beauty up red」「warm up yellow」「wake up green」
すべて135g、各¥432(税別)

※上記3種類以外にシンプルな米麹のみの甘酒やギフトセットもあります。

 

オンラインストア
https://www.kojimasohonten.com/

 

浅井直子 
編集者。『料理王国』前副編集長。三重県生まれ、愛知県育ち。中央大学文学部社会学科卒業後、広告制作会社などを経た後、独立。主にファッションと食のコンテンツ制作に関わり、2019年、『料理王国』副編集長に。2021年よりフリーランスの編集者として食と酒を主軸に活動しつつ、現在、食を文脈で読み解くメディア「FOOD commons」の準備と今年発行予定の日本酒本を執筆中

 

(この記事は2024/11/28にNewsletterで配信したものです)

 

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