LOGIC MAGAZINE Vol.02

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今、読者の皆さんと一緒に考えたいと感じた
ホットなトピック

 

アート・芸術は不要不急なのか?

日本国内で、特に芸術文化分野の事業者やプレイヤーが悲鳴を上げている。先日、今秋で30周年を迎えるワタリウム美術館が存続の危機を発表し、クラウドファンディングでの支援を呼びかけた。それ以外にも、展覧会の中止などで困窮している美術館、劇場、アーティストは少なくない。

ドイツでは、政府が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と断言し、大規模支援を打ち出した。その規模500億ユーロ(約6兆円※1ユーロ=120円として換算)。アメリカもイギリスも数千億規模も打ち出している。一方日本では当初は見送られていたものの、諸外国に遅れること6月に約560億の文化芸術支援を打ち出した。ここまでの温度差があるのは、単純に日本の政治家のアートに対するリテラシーの低さもあるが、産業としての規模の差が大きな理由であろう。

ドイツは芸術文化領域の産業規模が、自動車・機械産業に次ぐ3番目であり、日本のみならず英米と比較しても規模がケタ違いに大きい。また、第二次世界大戦中にナチスの政策や思想に国民の多くが傾倒してしまった反省から、多様な考え方に向き合ったり、主体的に考える力を養う手段として芸術文化を積極的に取り入れてきたと言われている。

パンデミックのような時期は、嗜好性や娯楽性が高いものが自粛され、様々なことで合理性が優先されていく傾向にある。特に日本国内では、芸術文化を嗜好性や娯楽性の産物として扱い、不要不急なものとしているきらいがある。最近見られる、思考の硬直化、二元論での分離敵対、正論を振りかざして人を傷つける自警団ようなものの発生は、それと無縁ではないと感じずにはいられない。

本来アートとは、作家の表現活動であるだけでなく、表現を通じて鑑賞者がこれまでにない価値観や視点に触れ、様々な解釈や考えを肯定する行為でもある。

欧米では、アートは嗜好や娯楽の域を超え、多様な考えを持つ人々が共生してくための役割を果たしている。歴史を辿ってみても、前述の戦後のドイツや、かつてのベトナム戦争時のアメリカ、東日本大震災など、文化が、そして芸術が、多くの人の救いになったり、励みになったり、そして未来への想像力の助けになる大切な役割を果たしてきた。

この不確実で閉塞的な時勢こそ、アートに見て触れて学び、己の価値観や視点を広め、想像力を膨らませることが重要ではないであろうか。また、ビジネスにおいても、アートに触れることで、新たなビジネスアイデアや、様々なインスピレーションのヒントにしている経営者や企業も少なくない。

コロナショック以降、アートをオンラインで楽しめるものも増えてきた。森美術館が過去の展覧会のバーチャルツアーをおこなったり、寺田倉庫が運営する画材をベースしたラボ「PIGMENT」では、オンラインでのアートの技法や教養を学ぶワークショップをおこなってりしている。オフラインでも、国立の6美術館がコロナ禍で中断になった展覧会で延長開催するような動きもある。

最後に、独断と偏見ではあるが開催中のおすすめの展覧会をいくつか紹介して締めくくりたいと思う。本来であれば“芸術の秋”でもあるし、こんな時期だからこそ、アートに触れることを強くお薦めしたい。


『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』
森美術館/2021年1月3日まで

コメント:日本の現代美術のオールスターがここに集結。このメンバーを一度にお目にかかれることはなかなかないと思います。


『おさなごころを、きみに』
東京都現代美術館/2020年9月27日まで

コメント:子連れの方におすすめ。おとなから子供まで楽しめる体験を中心にした展示。戦後から現代までのアートのツールも学べる

『ヨコハマトリエンナーレ2020 -AFTERGLOW―光の破片をつかまえる-』
横浜美術館他/2020年10月11日まで

コメント:トリエンナーレは美術の祭典。フェスにいくような感じでアートと触れ合えると思います。

『マル秘展』
21_21 DESIGN SIGHT/2020年9月22日まで

コメント:デザインの展示ではありますが、どこかでみたことのある有名なデザインの原画から、ものづくりの過程をふんだんに展示。自分の周りでもかなり評判の良い展示です。


参考文献:
・ドイツNews Digest - コロナ時代のドイツは芸術・文化をどう守るか?(http://www.newsdigest.de/newsde/features/10946-coronakrise-kunst-und-kultur/)2020.5.22
・Newsweek日本版 - ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92928.php2020.3.30
・HUFFPOST-日本とドイツの文化芸術支援は、なぜここまで違う? 背景をベルリンの文化大臣に聞く【新型コロナ】(https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e9907b1c5b63639081bf438)2020/4.20


 

LOGIC | PEOPLE

第一線で活躍するプロフェッショナルの体験や知見から
パフォーマンスアップにつながるヒントを学ぶ。

 


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SmartHR 代表取締役
宮田昇始氏

LOGIC MAGAZINE第2回インタビューは、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」でおなじみの株式会社SmartHRの代表取締役・宮田昇始氏。公開5年で導入企業は30,000社を突破し、事業も組織も急成長していくなかで宮田氏が今取り組んでいることや仕事観について伺ってきた。(聞き手:LOGIC MAGAZINE編集長 佐々木)

 

新規事業のために“社長”を採用。
成長の原動力は「任せること」

 

ーSmartHRのめまぐるしい成長や変化の最中、代表である宮田さんが今一番夢中になって取り組んでいることは何でしょうか?

宮田昇始氏(以下 宮田):実は、先月(2020年8月)もふたつほどリリースを配信しましたが、グループ会社の立ち上げに時間を注いでいますね。2019年のはじめあたりでしたが、「SmartHR」のサービス自体が順調に伸びてきて、自分の得意なことで次の一手を仕掛けようと考えた時、新規事業をつくろうと思って。実際、渋谷にエレベーターもないワンルームマンションを借りて一人で籠もって、悶々とした日々を過ごしていました(笑)。けれど、やっていくなかで、どうしても自分ひとりだと視野が狭くなることに気付き、伴走できてある程度の時点でバトンタッチできる人を探しはじめました。いずれ社長ができる人を採用しようという話になり、2人採用しました。ひとつの事業は既に顧客がつき始めていますし、もうひとつの事業もピボットはしたものの、今はかなり期待を抱いています。とにかく大切にしているのが、「任せる」ということですかね。もちろん、アイデアの構想が固まるまでは伴走しますし、SmartHRとのシナジーは考慮してもらいたいとリクエストしていますが、できる限りお任せして、新しい視点で主体的に事業を進めてもらいたいと思っています。今年の8月末までに3つのグループ会社が立ち上がり、引き続き4つめ、5つめに向けた求人も出しています。そういう意味では、グループとしての可能性をさらに広げてくれる「社長さがし」にけっこう夢中になってますね。

ー新しい事業をつくろうと思ったきっかけはなんでしょうか?

宮田:SmartHRは単一事業なので、それはそれでやりやすいんですが、2本目、3本目の柱もつくっていかないといけないなと思ったのが発端です。

ーグループ会社の社長の方の自走はどのようなところに気をつけて設計していきましたか?

宮田:今は月に1回、ミーティングをする程度なのですが、もともと自走する能力のある方を募っていましたし、その前提で入社してもらっています。なので、期待通りに自主的に進めてくれています。唯一オーダーしているとすれば、リーンスタートアップ的なやり方で進めてほしい、ということですかね。たとえば、予算もリソースも潤沢な会社の場合、完璧につくりあげてからローンチし、そのタイミングでプロモーションもガツンと行う、みたいなやり方が多いのですが、それはなかなかスタートアップだと難しかったりします。リーンスタートアップのような科学的にハズレの少ない事業のつくり方をやってもらう必要があるので、それをアンラーニングするのを手伝うというか(手伝うは表現がおこがましいですが)、「こういう風にした方が、多分うまくいきやすいですよ」とか、「僕らの失敗はこんな感じだったので、もしかしたら同じ状況になりつつあるかもしれません」とか、壁打ちの相手として話して、最終的には任せますという感じでやっています。

 

面白がること。素直に取り入れてみること。

ー宮田さんご自身の話に戻しますが、これまでの事業の進め方を拝見していて、ハードシングスが起こりそうなタイミングをうまく回避している印象があるのですが、それはどのように養っているんでしょうか?

宮田:まずインプットで言うと、会社の中のちっちゃいけれど気になる出来事にできるだけ敏感になるようにしていたり、社外で実際に起きたトラブルを積極的に聞くようにしています。その解決方法も基本的には誰かに教えてもらうことが多くて、それを素直に実践してみることが、うまく回避できるポイントかなと思います。例えば不正のトライアングル※の話とか、おそらく多くの経営者の方が「めんどくさいな」って感じるようなことを、面白がれて素直に取り込めるっていうのは強みのひとつかもしれないと思っています。

※不正のトライアングル:不正が行われるには「動機」「機会」「正当化」という3つの要因がそろった時に発生するとした理論


ー事業面で、いま先読みしているものってありますか?

宮田:それで言うと、先ほどの新規事業をたくさんつくっていくことがそれに当たるかもしれないですね。いまの事業も永遠に青天井ってわけではなく、いずれどこかで頭うちがくると思うんですよね。そうなった時に2本目、3本目の柱になる事業っていうのは早めに仕込んでおかないといけないなと考えています。もちろん、いまの今のクラウド人事労務ソフトとシナジーがあることは大切ですが、たとえばグループ会社のひとつである「SmartMeeting」という会議の生産性を高める会議改善クラウドは、働くことを良くするという枠組で柔軟に仕掛けていきたいですね。そうした新規事業を次々と自分主導で進めるのはどうしても難しいので、任せられるような人材を採用して、会社の柱を増やしている感じですね。

ー新規事業の場合、SmartHRの“働く人のプラットフォーム”的なビジョンとは別で考えていたりするのですか?

宮田:その辺りは曖昧かもしれません。シナジーって顧客基盤とか、データだったりするので、そこに入るものもあれば、入らないものも出てくるかもしれないなと。いまある3社は働くことを良くする会社なんですが、今後つくる会社はそこから外れるものも出てくる可能性があります。

 

固執しないで、得意な人を信じて託す。

ー宮田さんが今のような、比較的人に任せる経営のスタイルになった背景に、どんなきっかけがあったのでしょうか?

宮田:正直なところ、そうせざるを得なかったというのがいちばんの理由です。当初は自分でなんでもやっていたんですけど、単純に時間が取れなくなってきたんですよね。例えば営業も、オフィス移転も、導入サポートも、プロダクトの企画も自分でやっていた時期があったんですが、まずは任せやすいプロダクトの方から託すようになって、次第に広げていったという感じです。ただ、実際は営業が苦手なんですけど、なぜか営業だけは最後まで自分で担っていました。最後と言ってもプロダクトをローンチしてから一年後くらいの話です。任せるようになったきっかけとしては、営業チームの定例会議がいつのまにか議論ではなく報告会のような状態になっていたからです。これはよくないなと思って営業の定例会議に出るのやめたら、すごく議論が活発になって、売上も伸び始めるみたいなことがありました。そこで、専門的なことは得意な人たちに任せるのが一番だなってことを知りました。それからは、自分が関わることに執着しないようになりました。もともと、自分の性格的に何でもやりたいところが強いと思ってたのですが、いざそっちのほうが上手くいくなと思えたら、割とスムーズに手放せた気がします。あまり固執してないかもしれないですね。飽きっぽいところもあるかもしれないです。

 

偶発的なコミュニケーションを大切にしたい。

ーSmartHRは毎月14人くらい入社しているとお伺いしました。組織的がめまぐるしいスピードで大きくなってくことはどう受け止めていますか?

宮田:人数が増えたこと自体はすごくポジティブですが、リモートワークが定着してきたことで、カルチャーが薄まっている感覚はほんの少しありますね。やはり会社に来ていない人が多いですし、そもそも今年だけで社員も100人くらい増えているんですよ。その人たちには、これまでよりもカルチャーが薄まって伝わっている可能性もあるかなと思うんです。なので、人数が増えたからというより、リモートワークで偶発的なコミュニケーションが減ったことを少し心配してはいます。もともとオフィスにビールなどを用意して、帰り際にみんなで飲んだりと、コミュニケーションを重視していたんです。そういう機会はきちんとつくりたいなと、リモートが前提になったとしてもコミュニケーションを活性化させる仕組みはこれからいろいろ考えていきたいと思っています。

 

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宮田昇始さんの仕事のパフォーマンスアップのためのルーティーン

「1時間の早朝入浴」

朝起きて、お風呂に1時間くらい浸かるのを、5〜6年続けています。血行がいいとテンションも上がるというのが科学的にも言われているようですし、集中してインプットできる時間がなかなかつくれないので、いろいろなブログを読んだりとか、Twitterを見たり、Slackをチェックしたり。それをやらないと1日気持ちが悪くて調子が出ない感じになっていますね。あとはとにかく汗をかく、ということですね。最近では「BARTH」や「バブ・薬用メディキュア発汗リフレッシュストロング発泡」というものを使ってまして、さらに汗をかきたい時は浴室の暖房をかけることもあります。汗をかきたいとうのは、シェイプアップではなく、お酒を抜く目的ですね(笑)。社員との飲み会と、採用の会食がメインなんですが、新型コロナウイルス感染拡大前はほぼ毎日飲んでいました。

 

宮田昇始さんおすすめのワークツール

「FABRIC TOKYO」

今日のジャケットは、FABRIC TOKYOです。代表の森さんとは、プライベートでも仲良いですね。2年ほど前にはじめて作ってからは、ジャケットとかスーツはFABRIC TOKYO一択です。いつもはけっこうTシャツ・短パン・サンダルが多いんですが、ここぞという時、「明日は、短パンNGです」と秘書から連絡が来たりします(笑)。

「モノトーンのTシャツ」

ジャケットに合わせるインナーとしては、真っ黒か、真っ白が多いですね。白でよく着るのはZOZO TやユニクロのエアリズムTシャツ。昔はもっと効率重視で服を選んでいて、白シャツばかり着ていた時期もありました。5着持っていて、一週間ずっと白シャツみたいな。ZOZOの白Tも一時期7着持っていて、汚れてダメになっても、1枚千円未満なので気にせず毎日着れるので重宝していました。

「アウトドア系のウエア」

アウトドア系のものを身に付けるのが多いもしれないです。最近よく履いている短パンはTHE NORTH FACE、シャツはこの夏3枚くらい使いまわしてるんですけど全部SnowPeakですね。最近よく履くサンダルもSnowPeak。あと今日は着てないですけど、スーツっぽくに見えるTHE NORTH FACEのセットアップも持ってますね。アウトドア系は快適なので、仕事中もストレスフリーで心地いいです。

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編集後記
SmartHRの急成長の裏で、比較的早い段階から人に任せる経営スタイルにシフトしていた宮田氏。任せるようになった動機は清々しいくらいの潔さを感じた。その背景には、従業員に対する信頼はもちろんだが、なにより前段階にある採用そのものが上手くいっているということに尽きるだろう。「優れた人を採用する」→「信頼して任せる」→「再現性のある成長を生む」という、見事なサイクルが成り立っている。リーダーシップとはどういうことかを、今一度学ばせてもらうよい機会だったのではないでしょうか。

LOGIC代表・LOGIC MAGAZINE編集長 
佐々木 智也

(この記事は2020/9/14にNewsletterで配信したものです)

 

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