LOGIC MAGAZINE Vol.21

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今、読者の皆さんと一緒に考えたいと感じた
ホットなトピック

 


2022年のご挨拶

少し遅めのご挨拶となり大変恐縮ですが、新年あけましておめでとうございます。本年もLOGICとLOGIC MAGAZINEをよろしくお願いいたします。

さて、2022年ですが、いよいよ新バーションの発売となります。経緯については前号でお伝えした通りですが、リリースは春〜初夏頃を予定しております。進捗は随時お知らせしてまいりますので、ぜひ、ご期待ください。また、商品のバージョンアップにとどまらず、皆様が楽しめるようなコンテンツをオンライン・オフライン共に、続々企画していく予定ですので、こちらも楽しみにしていただけると幸いです。

落ち着きはじめたかと思われたコロナウイルスも、オミクロン株の流行で心配な状況が続きますが、くれぐれもお体に気をつけてお過ごしください。

今年もLOGICのプロダクトや様々なアクティビティ通じて、一人でも多くの皆様に喜びを提供し、お役に立てるよう精進して参りますので、引き続きご愛顧の程宜しくお願い申し上げます。

LOGIC 代表 佐々木智也

 

LOGIC | PEOPLE

第一線で活躍するプロフェッショナルの体験や知見から
パフォーマンスアップにつながるヒントを学ぶ。
 



021
株式会社& Supply
井澤卓氏

LOGIC MAGAZINE第21回インタビューにご登場いただくのは、池尻大橋にあるストリートバーLOBBYを手がける株式会社& Supplyの井澤卓氏です。Yahoo! JapanやGoogleといったIT企業を経て独立した井澤氏は、2018年にクリエイティブプロダクションとして& Supplyを設立。その後の2019年にLOBBYをオープンしました。「なぜクリエイティブプロダクションがバーを?」そんなシンプルな問いからこのインタビューははじまりました。(聞き手:LOGIC MAGAZINE編集部 佐々木、村上)

 

セオリーを知らないからこそ、
生まれた特別な場所

ー井澤さんは「& Supply」というクリエイティブプロダクションも経営されていますが、なぜ飲食店をはじめようと考えたのでしょうか?

井澤:ものすごく明確な理由があったわけではないんですけど、大学生の頃から飲食業に興味があったんです。当時は夜カフェが流行っていて、いろんなお店に足を運んでいるうちに自分でもやりたいと考えるようになって。中目黒にあるカフェでアルバイトもしていたのですが、自分より少し年上のカッコいい大人と交流するのもすごく楽しかったんですよね。そういう人たちが集う場をつくりたいなとおぼろげに考えていました。

ー大学卒業後はYahoo! Japanに入社したそうですね。卒業してすぐに飲食業へ進まなかったのはどうしてだったんですか?

井澤:飲食店でアルバイトをしてから2年くらい経ったあたりでお店が潰れてしまったんですね。その頃は中目黒という街が変わりはじめていた時期でした。かつては個人店が並ぶローカルタウンでしたが、ドンキホーテやサイゼリアといった資本力のある企業が参入して客層が変化していたんです。オーナーたちもお客さんを呼び込むためにいろいろ対策を打っていたんですけど、少しズレていたというか、違和感のある取り組みが多い気がしたんです。それで飲食店を経営するためには、飲食店を経営する以外のスキルが必要だと思ってYahoo! Japanに入社しました。

ーYahoo! Japanではどんなことをしていたんですか?

井澤:パナソニックやAppleなど、家電メーカーを中心に大手企業のデジタルマーケティングを担当していました。それから3年半ほど経った頃にGoogleに転職して。今度は中小企業の戦略立案に関わりました。その後に独立して、最初は1人で働いていたのですが、徐々に仲間が集まってきて現在に至ります。

 

小さな感動が積み重なっていくのが、飲食業の良いところ

ー昼も夜も働くとなると、肉体的にも精神的にも辛くなることがあると思います。どうやってバランスを取っているのですか?

井澤:確かにしんどい瞬間は多々あります。どんなに仕事が立て込んでいても18時になったらお店を開けないといけないので。でも、だからこそ、いろんなことを効率化していて。たとえば、仕込みに時間がかかるメニューは外しました。また、営業時間もオープン当初から比べるとどんどん短くなっています。それでも売上は伸びているんですよ。

ーそれは過去にデジタルマーケティングに関わっていたから実現できている側面もあるのでしょうか?

井澤:間違いなくあると思います。現に数字はかなり細かく見るようにしていますし、無駄だなと思うことに関してはドラスティックに変更してしまうので。それはビジネスサイドにいたからこそできることだと思います。個人店のなかには昼から仕込みをはじめて、18時からオープンして夜中まで営業しているようなケースもあると思うのですが、うちはそもそも長時間働くことができないので、自然とできないことはやらなくなっていったんですね。でも、働く側としては労働時間が少ないほうが自分の時間も確保できていいじゃないですか。

ー実際に飲食業に挑戦してみてどんな面白さがありますか?

井澤:自分たちがつくり出した場で人が繋がっていくのを間近で見られるのは嬉しいですよね。デジタルマーケティングの仕事は好きなんですけど、数字とばかり向き合うことになるからなおさら。僕自身もいろんな人と話すことができて気分転換になっています。

ーとはいえ、“場に人を集める”って言葉にする以上の難しさがある気がします。

井澤:そうですね。当然ながら収支がマイナスになる日もあるので、そういうときは本当にへこみます(笑)。ただ、それを補ってあり余るくらいの小さな感動が積み重なっていくのが、飲食業の良いところなのかなと思います。

ーLOBBYに人が集まる理由についてどう考えますか?

井澤:なんなんでしょうね。僕たちとしては仕掛けみたいなものをたくさんつくってるつもりではいて。たとえば、オーセンティックバーってちょっと入りづらい雰囲気があると思うんです。でも、LOBBYならふらっと立ち寄れるし、価格帯もそんなに高くない。だから、ライトな酒飲みにとってはけっこう居心地が良いらしくて。内装も僕たちに飲食業のバックグラウンドがないからこそ、セオリーを守ってないところも多いんですよ。段差もけっこうあるし、壁の配線も剥き出しだし。

ー確かに他の飲食店にはない雰囲気がある気がします。

井澤:もちろん最初は綺麗にしたかったんですよ。でも、配線は隣のラーメン屋とつながっていて切ることができなくて。それでしょうがないかと思って諦めたんですけど、むしろ面白がってくれる人が現れたんです。

ー確かに意味がありそうだと思考を巡らせたくなります。

井澤:そういうポジティブな違和感が生まれて、記憶に残るらしいんですよ。あと、Tシャツなどのオリジナルグッズも僕らでつくっているのですが、そうやっていろんなことをやることで場のビジネスを拡張できるなって。ただ、これってやりたいからやっているというより、自分たちの得意なことを活かしているだけなんですね。だから、たまに「LOBBYに入りたい」って言ってくれる人もいるのですが、「服づくりがしたいです!」みたいな話をされることがあって、ちょっと違うぞと(笑)。

ー側から見たらすごく楽しそうなことをしているからこそのギャップですよね。

井澤:いろんなことをやっているとはいえ、飲食店なので夜は遅いし、掃除も毎日しないといけないし、もう泥臭い仕事ばかりなんですよ。でも、こうやってお店を開いた以上はどんなことがあっても最終的には自分で責任を背負うということだけは決めていて。自分の尻は自分で拭く。その覚悟さえできていれば、ある程度のことは乗り越えられると思います。

 

ローカルな体制を維持しながら、店舗を増やしていきたい

ー今後の展開についてはどんなことを考えているんですか?

井澤:実は今、すごく悩んでいて。ありがたいことに僕たちの活動を面白がってくれるディベロッパーから声をかけられる機会が増えているんですね。僕としても事業を拡大したい気持ちがあるんですけど、大資本のなかに入っていくのがまだ納得できていなくて。関わってくれているメンバーにもっと良い待遇を提供していくためには、そういう依頼を受けていったほうがいいとは思うんです。大きな場に出て行くことで、まとまった額のお金が入ってくるようになるし、受諾案件の幅も広がっていくでしょうし。でも、大きな案件ほど向こうの都合で振り回されてストレスになることもあると思うので。

ー会社の成長を目指す井澤さんと、理想を追い求める井澤さんと、メンバーの幸せを望む井澤さんと、みたいな感じでいろんな井澤さんが頭のなかで会議しているイメージですよね。

井澤:めちゃくちゃ会議していますね(笑)。できれば、このローカルな体制を維持しながら、店舗を増やしていきたいと考えています。個人的な理想を言えば、閉じる時期を決めてお店を出すとかもありなのかなと考えています。やりたいことは常にあるのですが、それにもブームがあるので、満足したら終わりにして次のことに挑戦するのもいいんじゃないかなって。経営者としては甘い考え方なのかもしれないんですけど、めちゃくちゃ頑張ってお金を稼ぐよりも、みんながストレスなく好きな仕事をできていることのほうが大切だと思うんです。ただ、それもちょっとしたことでバランスが崩れてしまうので、この悩みとは常に付き合いながら経営を続けていくことになるんじゃないですかね。

 

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井澤卓さんのパフォーマンスアップのためのルーティーン 

「出社前にカフェへ行く」

オフィスの近くにあるカフェに行くことが新卒の頃からの習慣になっていて。考えごとをすることもあれば、本を読むこともあるし、ただボーッとして過ごすこともあります。この時間があることで思考を整理できるし、心が休まる感じもあるんですよね。

 

井澤卓さんのおすすめのワークツール

「PCスタンド」

デスクワークが続くと腰が痛くなるので、去年購入しました。ほかのメンバーも何人か使っているのですが、姿勢が良くなるので便利です。

「SONY α6000」

けっこう昔に買った一眼レフカメラです。自社事業にいろいろ取り組んでいるので、撮影が必要なときはこれを使っています。LOBBYのInstagram用の写真もこのカメラで撮っています。

 

LOGIC | CULTURE

教養としてのカルチャーを楽しみながら学ぶ。


「ビジネス映画学」第2回

『スパイ・ゲーム』

 “経営学のレジェンド”ことピーター・F・ドラッカーも語っていますが、ビジネスの場において上司と部下の信頼関係が重要なのは言うまでもありません。上司が部下に命令し、部下はそれに忠実に従うだけでは駄目で、互いに影響を受け合いながら協働できるような関係が必要不可欠です。では、そのような理想的な信頼関係はどのように築けばよいでしょうか。ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットが共演したサスペンス映画『スパイ・ゲーム』は、この問いに対して大いなるヒントを与えてくれます。

 引退を1日前に控えたある日のこと、CIA長官のミュアー(ロバート・レッドフォード)は不穏な電話で起こされます。手塩にかけて育て上げた工作員ビショップ(ブラッド・ピット)が、本部に無許可で中国の刑務所に侵入し、捕らえられたというのです。ミュアーは本部で上層部の聞き取り調査に応じますが、どうやらCIAはビショップを見殺しにするつもりらしい。タイムリミットは24時間。いかにして、ミュアーはビショップを救出するのか……というのが本作のあらましです。

 聞き取り調査の間、ミュアーはビショップとの出会いを回想します。ベトナム戦争のとき、とある作戦を指揮していたミュアーが、優秀な狙撃手として紹介されたのが、若き日のビショップでした。この作戦は途中で暗雲が垂れこめたものの、ビショップの機転により間一髪で成功。その才覚を見込み、ミュアーはビショップを工作員としてスカウトしたというわけです。と言って、すぐにビショップを現場に放り込むような真似をミュアーはしません。みっちりスパイとしてのスキルの手ほどきをするのです。ビジネスにおいては“即戦力”なんてワードが重宝されがちですが、上司と部下の長期的な信頼関係の構築を重視するなら、こうした丁寧な研修期間が必要不可欠なのでしょう。ミュアーのように、その過程で上司は自らの高度な技術を披露し、部下からのリスペクトを獲得することもできますから。

 この間にミュアーがビショップに教えたいくつかのことで、とりわけ重要に思われるのが、「引退後に南国で暮らせるくらいの貯蓄をしておけ」というもの。スパイに限らず混迷を極める現代社会において、あらゆる仕事は先行きが不透明です。したがって、もしものときのために、将来を具体的に見据えておくことを忘れてはいけません。ユーモラスにも聞こえるアドバイスですが、その裏には部下への真摯な思いやりがあるに違いありません。実際の仕事の現場において、情に厚いビショップと、仕事に限っては冷酷でもあるミュアーとしばしば対立もしますが、それでもなおビショップが仕事を放棄しないのは、ミュアーのこの思いやりに気づいているからでしょう。それはベイルートでの作戦に従事中のビショップが、ミュアーに誕生日プレゼントを渡すシーンからも明らかです。CIAの資料にも載っておらず、KGBやモサドですら知らない自分の正確な誕生日を掴んでいることにまずミュアーは驚くのですが、「俺はよく訓練されているんだ」と答えるのはビショップです。自分が教えた仕事のスキルでもって、自分が一番喜ぶことをされてしまったのだから、ミュアーは言葉を失うしかありません。さらに驚くべきは、内戦状態のベイルートにいるというのに、洒落たスキットルをプレゼントすること。なんでも“ディナー作戦”と呼ばれる裏ルートから入手したそうですが、ミュアーの思いやりが一方通行ではなく、ちゃんとビショップに伝わっていたことがわかる非常にチャーミングなシーンです。このようにして2人は信頼関係を築いていくのです。

 最終的にミュアーは、ビショップが無許可で作戦を行った理由を察知しますが、ここでは詳しく触れません。重要なのは、ミュアーがいかにして彼を救うかに尽きます。なんとミュアーは本部で聞き取り調査に応じる一方で、勝手に作戦をでっち上げ、米軍人を動かしてしまうのです。その過程もまた秀逸で、ミュアーは本部の中でビショップに教えたスパイとしてのスキルを自ら実践しながら情報を収集し、水面下で作戦を進めていくのです。自分ではできないアドバイスを部下にする上司も多いなか、ミュアーは実際に必要なアドバイスしかしていなかったことがここでは明かされているのです。なかでも度肝を抜かされるのが、この作戦にかかった費用として、引退後に南国で暮らすために貯めてきたものを全額つぎ込んでいること。例のアドバイスをミュアーもしっかり実践していて、まさにもしものときのために使っているわけです。さらに言えば、でっち上げられた作戦名は“ディナー作戦”なんだから、どこまで洒落ているんだと突っ込みたくなります。仕事に限っては冷酷でもあり、かつては「君が勝手なマネをしても助けにはいかないぞ」とビショップに語ったこともあるミュアーが、前言撤回してこんなことをやってしまう。それはミュアーもまた、ビショップの人間性に影響を受けながら仕事をしていたことの証左のように思えます。いずれにしても、2人の信頼関係は本物だったのでしょう。

 それにしても、ミュアーがこの作戦を本部の中からほぼ一歩も出ずに成し遂げてしまったことには舌を巻かざるを得ません。『踊る大捜査線 THE MOVIE』において、主人公の青島刑事は「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きているんだ!」と喝破していましたが、本作を観ると、この発言はどうも的外れな気もしてきます。事件は会議室でも起きているし、会議室が現場になることもある。それぞれに信頼関係を築いた上司と部下が、前者は会議室での事件に、後者は現場での事件に当たりつつ、その両者が有機的に交差した先に、よいビジネスの姿が浮かび上がってくる。『スパイ・ゲーム』は、そんなことを教えてくれているのではないでしょうか。


鍵和田 啓介 
1988年生まれ、ライター。映画批評家であり、「爆音映画祭」のディレクターである樋口泰人氏に誘われ、大学時代よりライター活動を開始。現在は、『POPEYE』『BRUTUS』などの雑誌を中心に、さまざまな記事を執筆している。


(この記事は2022/1/25にNewsletterで配信したものです)

 

 

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