LOGIC MAGAZINE Vol.23

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今、読者の皆さんと一緒に考えたいと感じた
ホットなトピック

 

【GW直前企画】建築として見る美術館巡り

久しぶりの自粛期間ではないゴールデンウイーク。色々なレジャーや行楽の選択肢があるなか、アートの連載をしているLOGICらしく美術館を紹介する。といっても展覧会の情報ではなく、今回は“建築物”として魅力ある美術館。美術館の魅力のひとつに、建物としての魅力がある。特に美術館は、日本や世界を代表する建築家がしのぎを削って設計したものであることが多い。日本にあまたある美術館のなかから、建築物を見に行くだけでも十分価値がある美術館を僭越ながらも独断で選ばせていただいた。ぜひ、連休の外出の参考にしていただればと思う。

<注意事項>
※開館時間や、休館日は公式サイトにて主催者の情報にてお確かめください。
※現在美術館のほとんどの展覧会は事前予約制になっており、当日券の販売はない場合があります。事前に予約をとって行くことをおすすめします。

 

1.十和田市現代美術館(青森県十和田市)

真っ白な積み木ををつなげてようなシンプルかつダイナミックな建築で、草間彌生やロン・ミュエクなど常設作品も魅力。設計は世界的建築ユニット、SANAAの西沢立衛氏。

アクセス : 〒034-0082青森県十和田市西二番町10-9
八戸駅から車で約40分/七戸十和田駅から車で約20分
公式サイト : https://towadaartcenter.com/


2.東京都庭園美術館(東京都港区)

旧朝香宮邸を改装し、1983年に都立の美術館として開館。庭園の美しさはもちろんのこと、建物、調度品までアール・デコ様式の粋を尽くした建築物。設計は宮内省内匠寮、室内装飾はフランスのインテリアデザイナー、アンリ・ラパン氏。

アクセス:〒108-0071 東京都港区白金台5-21-9
地下鉄白金台駅より徒歩6分
公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/


3.金沢21世紀美術館(石川県金沢市)

円形に広がる総ガラス張りの建物は圧巻、日本で一番インスタ映えする美術館といっても過言ではないです。レアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」を始め、敷地も館内のたくさんの常設作品を無料で楽しめます。設計はSANAAの妹島和代・西沢立衛氏。

アクセス : 〒920-8509石川県金沢市広坂1-2-1
金沢駅からバス・車で約10分
公式サイト : https://www.kanazawa21.jp/


4.地中美術館(香川県直島)

「自然と人間を考える場所」をテーマに建物の大半が地中に埋設され、クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの3名の常設を鑑賞するという非常に贅沢な空間。時間や四季を通して作品の見え方が変わるのも見どころ。設計は安藤忠雄氏

アクセス:〒761-3110 香川県香川郡直島町3449-1
高松港から船で約40〜60分・宇野港から船で約20分
公式サイト : https://benesse-artsite.jp/


5.大分県立美術館(大分県大分市)

“街に開かれた縁側としての美術館”をコンセプトに
大分の竹工芸をイメージした全面ガラス貼りの開放感あふれる外観が特徴。展覧会場以外のスペースは誰もが無料で楽しめるので、気軽に立ち寄れる、設計は坂茂氏。

アクセス:〒870-0036 大分県大分市寿町2−1
JR大分駅府内中央口(北口)から徒歩15分
公式サイト:https://www.opam.jp/

 

LOGIC | PEOPLE

第一線で活躍するプロフェッショナルの体験や知見から
パフォーマンスアップにつながるヒントを学ぶ。
 



023
青山ブックセンター本店
山下 優氏

LOGIC MAGAZINE第23回インタビューにご登場いただくのは、青山ブックセンター本店(以下、ABC)で店長を務める山下 優氏です。アルバイトからキャリアをスタートさせ、2018年に店長に。それから約4年をかけてABCの変革に取り組んできた山下氏の“夢中”に迫ります。(聞き手:LOGIC MAGAZINE編集部 佐々木、村上)

 

本によって生活が支えられている人が
いるかぎり書店員でありたい

ー山下さんがABCの店長になってもうすぐ4年。後半の2年はコロナ禍で営業しているわけで、かなり厳しい局面も多かったように思えるのですが、実際はどうだったのでしょうか。

山下:正直な話、コロナ禍になるまではすごく調子が良かったんです。ロゴも刷新して、これからもうひと伸びというところでした。それがコロナで一気に変わって。しかも最近は、ロシアのウクライナ侵攻もあって、心を落ち着けて本を読める状況ではなくなっていますよね。実際、お客さんの足が遠のいているのを如実に感じますし、本が読めなくなってしまった人はけっこういる気がします。リモートワークでずっと家にいるとひと息つく間もないですし、ストリーミングサービスやスマホで時間を潰すことも簡単にできてしまう。そうすると、本の入る隙間がないなと。

ーそういう話を聞いていて、山下さんの胸中としてはすごく苦しいのかなと思うんです。それでも折れずに本を売り続けることができるのは、なぜなのでしょうか。

山下:考えがひねくれているかもしれないんですけど、これから先、出版業界が書籍の売上で過去のような景気の良い状況になることはほぼないと思っているんです。本屋の数もどんどん減っていますし。ただ、それでも、本屋は必要だと考えていて。というのも、一冊の本をつくるためにものすごい数の人が関わっているんですよね。お客さんはもちろん、著者、出版社、印刷会社、取次って。そういう人たちの努力があって、書店の経営は成り立っている。そのことを考えたら簡単に諦めちゃいけないと思うんですよ。僕自身、過去にABCでイベントを月に20本以上企画していた時期があって、そのときにいろんな人に助けてもらったんですよ。そういう人たちの存在に報いたいというか。

ー本によって生活が支えられている人がいる、と。

山下:それに今って情報量が増えた結果、あらゆるものが瞬間的に消費されるようになっているじゃないですか。世間を賑わせているニュースやバズったコンテンツだって1週間もしたら誰も覚えていない。そのなかで本のように自分のペースでゆっくり時間を費やせるものってほとんどないし、100年以上前に書かれたものを手にできるのも貴重だなと思うんです。そういうものがあったほうが人生は豊かだなと。

ー本がある世界とない世界を想像したときに、ある世界のほうがいいということですよね。

山下:そうですね。しかも、物として存在していることにも価値があると思うんですよ。最近はデジタルメディアのクローズも増えていますが、そういう場に置かれていたコンテンツって一瞬で消えてしまうんですよね。一方で、すべてではないにしろ、本は残っていくものがあるわけで、それは尊いなと感じます。

ーキリスト教が広まったのは聖書があったからだ、みたいな話もありますよね。

山下:地動説もそうですよね。だから、文字として残されていく価値ってすごく高いですよね。これから先、本はレコードみたいに希少性の高いものになっていく気がしているのですが、そのときまで書店員をやっていたいなと考えています。

 

書店員だからこそ挑みたい、本棚を通じたコミュニケーション

ー山下さんはABCで出版レーベルを運営していますよね。実際に取り組んでみて感じたことはありますか?

山下:ものすごくやりがいがあったのと同時に難しさも実感しました。本をつくっている人たちの苦労を少しは知ることができましたね。あとは解像度が上がりました。なぜこの判型で、この装丁なのか、みたいな。それで感じたのは、装丁が良くて内容が悪い本はないということでした。もちろん好みの問題もあると思うのですが、自分が良いと思った装丁の本は、中身も良いことが多いんですよね。当然の話といえば当然なんですけど、中と外は連動するんだということを知る良い機会になったと思います。

ー現在は、小倉ヒラクさんの『発酵する日本』と木村まさしさんの『ALL YOURS magazine vol.1』の2冊が発行されています。出版するうえで何か基準を設けているのでしょうか。

山下:両方とも自分も興味があって、需要もあるだろうという算段があって制作しました。あと、大手出版社がやらないような企画になっている点も特徴だと思います。

ー小倉ヒラクさんの本は写真集のような構成になっているのが特徴ですよね。

山下:そうですね。木村さんの本も他だったらビジネス書っぽい内容になっていたと思うんですけど、それを思想に寄った本にできたのはABCならではなのかなと思います。

ー今話していたことに通じることとして聞きたいのですが、山下さんのなかで推しのような本ってあるんですか?

山下:個人的な好みだけで選ぶことはないですね。中身を読んでみたりして、ABCとしてどれくらいの冊数を入荷するか決めるようにしています。そのなかで、昨年の塩谷舞さんの『ここじゃない世界に行きたかった』(文藝春秋)のようにABCでものすごく売れた本があるっていう。ただ、自分たちが売りたい本とお客さんがほしい本のちょうど良いバランスはすごく難しいんですよね。どちらかに振っても面白くないですし。そういう棚を通じたコミュニケーションの綱引きをずっとしている気がしますね。

ーどんな本を置いてどんな本を置かないか、みたいな話にも通じることですよね。それこそ、ヘイト本は置かないみたいな。

山下:はい。ただ、それも難しい話ではあるんですよね。たとえば、ABCでは受験参考書や理系の専門書は置いていないので、そういうものを求める人たちから「なぜ置いてないんだ」と怒られることもあります。そういう意味では、本屋というものがひと括りにされすぎているんですよね。広いフロアを持つ本屋とABCでは、品揃えに差があるのは当然なわけで。だからこそ、ABCならではの何かがもっと必要になってくるのかなと思うのですが。

ー次の一手として具体的に考えていることはあるのでしょうか。

山下:できれば棚で何か実現できたらいいんですけどね。ただ、現在の状況だと来客数が少ないので、何が原因なのかを掘り下げることが難しいんですよね。単純にうちに魅力がないのか、コロナだからなのか。それがわからないことには工夫ができないので。動かないといけないことはわかってるんですけど、難しいところです。

ーオンラインを拡充するのはどうなんですか?

山下:オンラインストアもやってはいるんですけど、ABCはやっぱり店頭に来てもらうことに価値があると思うんですよね。その点でいうと、現在、ヒラクさんがオーナーを務める「発酵デパートメント」や高円寺にある「小杉湯」、あと千葉県柏市にある「道の駅しょうなん」に本を置かせてもらっているのですが、そっちは好調なんですよ。だから、本自体の価値が下がったわけではないと思うんですね。そういう意味では、ABCという書店の魅力が落ちているような気もするので、もう少し試行錯誤していきたいと思います。

 

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山下優さんのパフォーマンスアップのためのルーティーン 

「水を2ℓ飲む」

お酒が大好きでよく飲むので、酔い覚ましが必要なのですが、コーヒーがあまり得意ではないんですね。それもあって水をよく飲むようにしています。2ℓペットボトルに継ぎ足し継ぎ足しで。

「朝にレコードをかける」

本と同じくらい音楽も好きで、家にはけっこうな枚数のレコードがあります。毎朝、そのなかから気分に合わせてレコードをかけています。

 

山下優さんのおすすめのワークツール

「バブ・薬用メディキュア発汗リフレッシュストロング発泡」

年齢とともに回復力が落ちている気がしていて、最近はシャワーで済ませるのではなく、きちんと湯船に浸かるようにしています。疲れが身体に表れそうだなと思うときに、これを入れてお風呂に入ると芯から暖まることができて、すごく良いんです。 

LOGIC | CULTURE

教養としてのカルチャーを楽しみながら学ぶ。

illustration:うえむらのぶこ


「ビジネス映画学」第3回

『マネー・ボール』

 資本主義下のビジネスにおいては、他社との競争を免れません。資金力が同程度であればまだしも、そこに雲泥の差があったなら劣勢にならざるをえないでしょう。そんなときは、これまでの方法論をかなぐり捨て、まったく違った戦略を立ててみるべきかもしれません。そんなことに気づかせてくれるのが、実話を基にした『マネー・ボール』です。

 主人公は、アメリカの弱小野球チーム、オークランド・アスレチックスでGMを務めるビリー。高校でスター選手として活躍した彼は、ニューヨーク・メッツにドラフト一巡目指名を受け、名門スタンフォード大学の奨学生の権利を蹴ってまで入団したもののまったく振るわず、いくつかの球団を転々とした後、選手を引退して今の地位についたのでした。

 2001年、アスレチックスは窮地に立たされたいました。ディヴィジョンシリーズでニューヨーク・ヤンキースに敗れた末、3人の主力選手のフリーエージェント移籍が決まってしまったからです。と言って、球界でもっとも資金力がないアスレチックスには、他からいい選手を迎え入れることなど夢のまた夢。昔気質のスカウトマンたちは、自分たちの審美眼を頼りに、まだ誰も目をつけてない選手をビリーに推薦します。しかし、彼は首を縦に振りません。結局、そういった主力選手を育てても、どうせ他の球団が金に物を言わせて引き抜くのが関の山だからです。

 そんなある日のこと、トレード交渉のためクリーブランド・インディアンスのオフィスを訪れたビリーは、イエール大学卒業のスタッフであるピーターに出会い、他のスカウトマンとは違う視点があるように感じます。詳しく聞くと、ピーターはセイバーメトリクスなる理論の支持者でした。セイバーメトリクスとは、各種データを統計学的に分析し、得点に貢献できる確率の高い選手を割り出すという理論のこと。これに興味を抱いたビリーは、この理論を十分に活用させてもらえず肩身の狭い思いをしていたピーターを引き抜き、まったく新しい方法論でチームを編成していきます。

 セイバーメトリクスが興味深いのは、低評価の選手でも、分析によって導き出された能力に応じた配置につければ、活躍が見込まれると考えている点でしょう。例えば、肘の故障で投球ができなくなり、球団から見放されつつあった捕手のハッテバーグを一塁手としてスカウトします。選手生命すら危うい選手を、これまでやったことがないポジションで迎え入れた理由はただひとつ、彼の出塁率が高かったからに他なりません。

 そして、2001年のシーズン戦が幕を開けるのですが、セイバーメトリクスによるチームはなかなかうまくいきません。監督の理解も得られずハッテンバーグを一塁手にも使ってもらえないからです。負けが続き、球界全体から「野球はデータじゃない」と批判される始末。しかし、諦めきれないビリーは従来の一塁手をクビにし、監督がハッテンバーグを使えない状況へと追い込み、チーム自体にも発破をかけていきます。すると、みるみる上向いてくるではありませんか。結果、その年のアスレチックスは、20連勝という103年のアメリカ野球史において前人未到の偉業を達成してしまうのでした。残念ながら、ワールドシーズンの勝利には手が届きませんでしたが。

 真正面から立ち向かっても競合に勝てそうにないなら、これまでとまったく違う視点で戦略を立ててみる。それは勇気のいることですが、マイナスからのスタートならば、やってみる価値はあるのではないでしょうか。本作はセイバーメトリクスの導入だけでなく、人材育成という観点でもその重要性を描いていると言えます。実際、ピーターもハッテンバーグも以前いた場所では、爪弾き者の烙印を押されていたのですから。そうした人材のまだ誰も目をつけていないポテンシャルを最大限に発揮してあげることも、ビジネスマンには大切な能力なのです。


鍵和田 啓介 
1988年生まれ、ライター。映画批評家であり、「爆音映画祭」のディレクターである樋口泰人氏に誘われ、大学時代よりライター活動を開始。現在は、『POPEYE』『BRUTUS』などの雑誌を中心に、さまざまな記事を執筆している。


(この記事は2022/4/26にNewsletterで配信したものです)

 

 

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