LOGIC MAGAZINE Vol.32

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今、読者の皆さんと一緒に考えたいと感じた
ホットなトピック

国立西洋美術館(出典:Wikimedia Commons)


本日11月3日は「文化の日」。
無料公開される美術館・博物館をピックアップ

本日11月3日は、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」を主旨に、1948年に制定された「文化の日」。この日、国内の美術館や博物館などの各種文化施設の無料で一般公開される。全国の対象施設をいくつかピックアップして紹介するので、せっかくの機会に、文化に触れる1日にしてみるのはいかがだろうか。

※開館時間や混雑状況は公式サイト等で主催者の情報にてお確かめください。



東京国立近代美術館

所蔵作品展「MOMAT コレクション」

住所: 〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
電話:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口徒歩3分、東京メトロ半蔵門線・東西線・都営新宿線「九段下駅」4番出口、半蔵門線・都営新宿線・三田線「神保町駅」A1出口より徒歩15分



国立西洋美術館

常設展

住所: 〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
電話:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
JR上野駅公園口より徒歩1分、京成線京成上野駅正面口より徒歩7分



東京国立博物館

総合文化展

住所: 〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
電話:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
JR上野駅公園口より徒歩10分、京成線京成上野駅正面口より徒歩13分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より15分



国立科学博物館

常設展

住所: 〒110-8718 東京都台東区上野公園7-20
電話:03-5777-8600
JR上野駅公園口より徒歩5分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分、京成線京成上野駅正面口より徒歩10分



千葉県立美術館

テオ・ヤンセン 展

住所: 〒260-0024 千葉県千葉市中央区中央港1-10-1
電話:043-242-8311
JR京葉線・千葉都市モノレール千葉みなと駅より徒歩8分


栃木県立美術館

文晁と北斎 ―このふたり、ただものにあらず

住所: 〒320-0043 栃木県宇都宮市桜4-2-7
電話:028-621-3566
JR宇都宮駅西口より関東バス「桜通十文字」下車徒歩7分、東武鉄道東武宇都宮駅東口より関東バス「桜通十文字」下車徒歩7分


京都国立近代美術館

2023年度 第3回コレクション展

住所: 〒606-8344 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
電話:075-761-4111
地下鉄東西線東山駅1番出口より徒歩5分、京阪線三条駅9番出口より徒歩15分、阪急線京都河原町駅よりバス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ、JR京都駅よりバス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ


兵庫県立美術館

2023年度コレクション展Ⅱ 特集1「Welcome!新収蔵品歓迎会

住所: 〒651-0073 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
電話:078-262-1011
阪神線岩屋駅より徒歩8分、JR神戸線灘駅南口より徒歩10分、阪急線王子公園駅西口より徒歩20分


徳島県立近代美術館

所蔵作品展 2023年度 II「祈りと幻想」

住所: 〒770-8070 徳島県徳島市八万町向寺山 文化の森総合公園内
電話:088-668-1088
JR牟岐線文化の森駅「文化の森駅東」よりバス「文化の森」下車、JR徳島駅より徳島市営バス18分「文化の森」下車


福岡市美術館

常設展「FUKUOKA アジアに生きた都市と人びと」
黒田家名宝展示「10代藩主黒田斉清と尾長鴨図」

住所: 〒814-0001 福岡県福岡市早良区百道浜3-1-1
電話:092-845-5011
地下鉄空港線西新駅1番出口より徒歩13分、地下鉄空港線天神駅よりバス「博物館北口」下車徒歩4分、JR博多駅よりバス「博物館北口」下車徒歩4分


沖縄県立博物館・美術館

海と島に生きる-豊かさ、美しさ、平和を求めて-
美術館コレクション展

住所: 〒900-0006 沖縄県那覇市おもろまち3-1-1
電話:098-941-8200
ゆいレールおもろまち駅より徒歩10分

 

LOGIC | PEOPLE


第一線で活躍するプロフェッショナルの体験や知見から
パフォーマンスアップにつながるヒントを学ぶ。
 



032
BOTANIC株式会社
上甲友規氏

LOGIC MAGAZINE第32回インタビューにご登場いただくのは、BOTANIC株式会社のCEO上甲友規氏。同社は現在、実店舗の「ex. flower shop & laboratory」、花と新聞のサブスクリプションサービス「霽れと褻(はれとけ)」、そしてオーダーに応じて採取した花をギフトやサブスクリプションで届けるD2Cサービス「LIFFT」の3ブランドを展開しています。日常的に花を飾るカルチャーをつくっていきたいと話す上甲氏。どのような想いで事業に取り組んでいるのかを聞きます。(聞き手:LOGIC MAGAZINE編集部 佐々木、村上) 

 

気軽に花を飾ったり、贈ったりする
カルチャーをつくりたい

―上甲さんは戦略コンサルティングファームを経て2019年にBOTANICに入社され、当初はCOOだったんですよね。

上甲:はい。創業者の退任を機に2020年からCEOに就任しています。

―創業者ではないからこそ、経営の難しさに直面することも多々あるのではないかと想像するのですが、事業を続けていくうえで何が「夢中」の原動力になっているのでしょうか。

上甲:これは僕の勝手な使命感なんですが、仕事を通じて世の中をもっと良くしたいとか、もっと豊かにしたいという思いがあります。では、なぜ花卉(かき)業界に身を置いているのかというと、自分にしかできないことがある気がしているからなんです。おっしゃるとおり、僕は創業者ではありません。また、フローリストでもない。ただ、僕は前職がコンサルだったこともあり、ビジネスを進めていくためのノウハウをある程度知っていました。また、母親が美術教師だったこともあり、フローリストと会話するために必要となるアートやデザインの知識も少なからずある。このふたつを兼ね備えている人って花卉業界にはなかなかいないので、強みになると思ったんです。

―上甲さんは花卉業界をどのように変えていきたいと考えているのでしょうか?

上甲:実は日本って先進国のなかでも1人当たりの花の消費額が最下位レベルなんですね。その背景には、花=特別な日のものというイメージがあります。たとえば記念日に花束を渡したり、結婚式や葬式といった冠婚葬祭に使ったりっていう場面にかぎられているじゃないですか。それが一概に悪いということではないのですが、欧米のようにもっと気軽に花を飾ったり、贈ったりできるカルチャーをつくっていきたいと考えています。

―変化の兆しを感じる瞬間はありますか?

上甲:そもそも僕がBOTANICに関わりはじめた5~6年前は、花のサブスクサービスなんてほとんどなかったですから、その頃から比べたら大きく変わったんじゃないかと思います。また、今までだったら興味を持たないだろう人が家に花を飾るようになった実感もあるので、伝わる人には伝わっているとは思います。ただ、それがカルチャーになっているかと言われたらまだまだで。やっぱりバラが1本500円するのって一般的な感覚としては高いし、それだったら高級ポテトチップスを食べたほうがいいと考える人のほうが多いと思うんです。一方で、原価が高い花の値段を下げるのは短期的には現実的ではない。だとすると、バラが1本500円する背景に何があるのかをしっかり情報として届けていく努力をしないといけないと思うんです。

―具体的に取り組んでいることはあるのでしょうか?

上甲:SNSでの発信はもちろん、たとえば「LIFFT」ではジャーナル(冊子)を制作して花と一緒に送るようにしています。そのなかで花づくりの裏側について紹介しているほか、飾り方を工夫してみるとか、花瓶にこだわってみるとか、生産地で花を選んでみるとか、花を楽しむ方法についても提案しています。

 

優秀なフローリストが長く働ける環境を

―事業を進めていくうえでハードルがあるとすれば、どのようなものがありますか?

上甲:今話したことにも通じるのですが、費用対効果のバランスについては常に悩んでいます。花と一緒に冊子を送っても売上には直結しないので、短期的に考えたらコストにしかならないんですよね。考え方によっては、冊子を制作するための費用を抑えて、商品価格を安くしたり、広告出稿に使ったりという選択肢もあると思います。でも、僕たちはただ花を売るだけでなく、カルチャーにしていきたいと考えているので、中長期的なブランドづくりだと考えたら必要だと思うんです。

―短期的な指標と長期的な指標のバランスは悩みそうです。

上甲:花は原価が高い一方で鮮度が落ちるのが早いので、取り扱いが難しいんですよね。基本的には入荷してから1日、遅くても3日以内には売り切るようにしているのですが。その点、サブスク化するとつくる数や内容が事前にわかるので、仕入れにも無駄がないですし、効率的に花束を生産を進められるんですね。一方で、花束やアレンジメントなど技術が必要な商品制作量を増やしていくためにはそれなりの時間と労力をかけてスタッフをトレーニングをしていく必要があって。だから、優秀なフローリストに長く働いてもらえるようにすることも大事だと考えています。

―雇用の問題にもつながるわけですね。

上甲:フローリストの多くが一定のアシスタント期間を経て独立していくのですが、その間は最低賃金に近い条件で働かなければならないのが一般的です。独立しても成功するのはひと握りですし。それだと多様性はないじゃないですか。であれば、技術のあるフローリストが子育てをしながらでも働ける仕組みをつくったり、マニュアル化を進めて経験年数に関わらずクオリティの高い花束をつくれるようにしたほうがいいと思うんですよ。

―クリエイティブな職業ほど属人的になりやすいですよね。それをなるべく非属人化していくことも大切そうです。

上甲:花束をつくったりフラワーアレンジメントしたりという作業って、3割ぐらいは個人のセンスやスキルが問われるんですけど、7割ぐらいはルール化できるんです。たとえば、ナチュラルなテイストの花束のつくり方とかって。僕たちには秘伝書的なルールがあるんですけど、それを守ればある程度のレベルまでは仕上げることができるわけです。そういう取り組みをしている花屋ってそんなに多くない気がするんですね。あと、オンラインビジネスは店舗のように営業時間の概念がないので、すごく効率的に作業ができるんです。それは大きなメリットかなと思います。実店舗だと19時や20 時までは店を開けておかないといけなかったりもするので、女性は特に子供とかが生まれると辞めざるをえなくなってしまうんですよね。でも、事前にどれくらいの花束をつくればいいのか把握していれば、たとえば10時から16 時まで集中して働いて、完成した美しい花束を宅配業者に渡しさえすれば、その個人のバリューは十分発揮されます。

―登録者数がさらに増えた際には、制作ラインの一部を機械化するようなことも考えているのでしょうか?

上甲:そういう取り組みをしている事業者もいるのですが、機械化したからといってものすごく効率性が上がるというわけではないので、まだ検討はしていないですね。いずれにせよ、ある程度の人手は必要になるかなと思います。
―そうすると上甲さんとしては適切な規模感みたいなものがあるのでしょうか?

上甲:ビジネスサイズで言うと、日本で業績を伸ばしていったとしてもユニコーン企業にはなれないと思うんですよ。それくらい小売業はシビアだと感じています。ただ、可能性がゼロなわけではなくて。たとえば、事業の仕組みをフォーマット化して海外に展開するのは選択肢のひとつとして持っています。特に東南アジアは狙い目なんじゃないかなと。まずは日本で結果を出してからの話ですけれど(笑)。

―でも、可能性はすごく感じているんですよね?

上甲:そうですね。そもそも日本で生産される花のクオリティって世界的に見てもレベルが高いと思うんですよ。実際、韓国や台湾の業者は日本から花を仕入れているくらいですから。それに日本のフローリストの技術も高いので、日本の花を海外に輸出するための流通の問題さえクリアできれば、海外でのビジネスチャンスは十分にあると考えています。ブランドづくりとか、コンテンツづくりとか、いろいろローカライズしないといけないとは思うんですけれど。

 

多くの人に第一想起されるブランドへ

―仕事に夢中になれるからこその喜びがあると思うのですが、上甲さんにとって何がモチベーションになっていますか?

上甲:ありきたりな答えかもしれませんが、いちばんはお客さまの反応が見える瞬間ですね。SNSに感想が書かれていると嬉しくなります。あと、スタッフが会社のミッションと自分の目標を紐づけて前のめりに働いている姿を見るのも楽しいです。

―理想的なチームになっている感覚ありますか?

上甲:そうですね。もちろんひと筋縄ではいかないこともたくさんありますけど。ただ、どんなビジネスでも同じことが言えますが、志を持った人が一生懸命に取り組んではじめて想いはお客様に伝わるし、お客様の声が広がることでブランドの認知は広がっていくと思うんです。その好循環をつくっていくために、起点となるスタッフが生き生きと働けるような場をつくっていきたいですし、多くの人に第一想起されるブランドになるように頑張っていきたいですね。

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上甲友規さんのパフォーマンスアップのためのルーティーン


「花の水を交換する」

切り花って、なにもしないで数日放置すると水が濁ってきて、すぐに枯れてしまうんですね。だから長持ちさせるためには、切り口をカットし直したり、水を換えたりという日々のメンテナンスが大切なんです。ただ、心の余裕がないと花の状態にまで気を配れないこともあって。自身の状態を知るパラメーター的な意味も込めて、花をケアしています。

 

上甲友規さんのおすすめのワークツール


「LINE WORKS」

市場で仕入れがはじまる朝5時くらいからアクティブになり、それから終業まで100通以上のやりとりを毎日しています。Slackも導入しているのですが、事業との相性なのかスタッフの気質なのか、圧倒的に使われているのはLINE WORKSなんですよね。スタッフは作業中心でパソコンを常に開いているわけではないのが影響しているんだと思います。

 

 

LOGIC | CULTURE


教養としてのカルチャーを楽しみながら学ぶ。


「アートのロジック」第10回

『ゴシック』

ゴシックは、12世紀半ばから15世紀にかけて西ヨーロッパの各地で隆盛した建築や美術のスタイルです。それに先立つロマネスクとともに、ヨーロッパの「中世」と呼ばれる時代を代表する様式であり、その後のルネサンスの価値観のなかで否定されますが、18~19世紀にリヴァイバルが起こるなど、時代を超えて根強く西欧文化に息づいてきました。

この様式は当時、フランスやドイツ、イギリス、イタリアなどの都市で多く建設された大聖堂(カテドラル)という教会建築のスタイルとして発展しました。秩序や均衡を崩すほどに上へ上へと伸びる昇高性や、無数の柱、奇抜な彫刻や過剰な装飾など、対峙した人の感覚に強く訴えかけるそのあり方は圧倒的で、ときに「グロテスク」とも言われます。

たとえば建築家の隈研吾は、その著書『新・建築入門――思想と歴史』のなかで、ゴシック建築を西洋建築史の「異物」と表現しています。基本的に、ギリシャやローマ時代の古典主義と呼ばれる建築を軸にして発展してきた西洋建築史のなかで、「ゴシックは唯一、反古典主義的な相貌を示す建築様式であった」と言うのです。裏を返すと、そうした王道から外れるような歪さにこそ、他にはないゴシックの魅力が宿っているとも言えます。

そもそも「ゴシック」という名称自体、ルネサンスの人々による、それ以前の建築様式への蔑称として生まれたものでした。「再生」や「復活」を意味するルネサンスは、その名の通りギリシャやローマ時代の古典文化の復興運動です。理性や秩序、客観性に重きを置く機運のなか、ルネサンス発祥の地であるイタリアの人々は、ローマの建築と、アルプスの北側からやってきた地方種族の建てた情緒的かつ主観的で「野蛮な」建築を区別し、後者をゲルマン民族の一種族であるゴート人になぞらえ、「ゴシック」と呼びました。

実際のところ、ゴシック建築の出発点は、ゴート人と無関係な北フランスのイル・ド・フランス地方にあるサン・ドニ修道院附属教会堂内陣の改築工事でした。1140年に着工されたこの工事で、当時の院長シェジェールは、新時代の到来を告げるような建築の建設を目指し、さまざまな土地から石工や画家、ステンドグラス職人などを集めました。

残念ながら当時の建物は一部しか現存していませんが、1144年に開かれた献堂式(新しい建物を神に捧げる儀式)に集まった各地の司教たちは、その建築を前にした驚きを自分の教区に持ち帰りました。カトリックでは、教区の中心となる司教の座る椅子の備えられた聖堂を司教座聖堂、大聖堂(カテドラル)と呼び、その建物のある都市を司教座都市と呼びます。大聖堂は、政治や宗教の中心たる司教座都市の「顔」であり、献堂式で衝撃を受けた司教たちは、これに負けじと自らの教区の大聖堂を建設しました。こうした動きが北フランスから各国に伝播することで、ゴシック様式は拡大していったと言われます。

完成時期はバラバラですが、とくに有名なゴシック様式の建築物には、フランスのノートルダム大聖堂、ランス大聖堂、アミアン大聖堂、シャルトル大聖堂、イタリアのミラノ大聖堂、ドイツのケルン大聖堂、イギリスのウェストミンスター寺院などがあります。

こうしたゴシック建築には、大きく以下のような特徴が挙げられます。

ひとつ目は、建物の開口部などに見られる先が尖った「尖頭アーチ」です。この造りは、ひとつ前のロマネスク建築の丸みを帯びた「半円アーチ」に対して、人の意識を上へと向かわせる効果を持ちました。ふたつ目の特徴は、建物の側面に縦長の窓がいくつも空いていること。その高窓にはステンドグラスが嵌められ、建物内部を神聖な光で満たしています。これもまた、壁が少なく内部の薄暗い、重厚なロマネスク建築と対照的です。

教会建築には、「ヴォールト」と呼ばれるかまぼこ型の天井が多用されますが、ゴシック建築ではここに、「リブ」(肋骨)という幾重にも交差するアーチの筋が渡されます(リブ・ヴォールト)。さらに、こうした窓が多く(壁が少なく)、天高く伸びる建物を構造的に支えるために、建物外部にさらなる柱とアーチを設けて、つっかえ棒のように安定感を生み出す「飛梁(フライング・バットレス)」も導入されました。フランス文学者の酒井健は、『ゴシックとは何か 大聖堂の精神史』で、「蟹の足のように」迫り出したこの飛梁が、「ゴシック教会堂の外観を決定的にグロテスクにしている」と述べています。

では、当時の人々はなぜこうした特異な建築様式に至ったのでしょうか? その理由についてはさまざまな言葉が交わされてきましたが、先の酒井は、その背景のひとつに大自然への感情があったと指摘しています。

当時のフランスでは、農業改革やそれに伴う食糧不足などから、農村から都市へと人口が移動していました。キリスト教では基本的に、知性を持つ人間が自然を支配するという世界観が共有されていましたが、この時期、都市に集まった農民たちは普段の営みのなかで自然の力をリアルに感じていました。そして、農民たちにとって「自然の第一の相貌は森林であり、高木の群れであった。鬱蒼として恐ろしげな森、しかしそれでいて神秘的で深い魅力に富んだ森は、彼ら農民にとって、聖なる場であった」と酒井は言います。

ところが、このようなキリスト教の価値観から見れば「異教的」な自然観を持つ農民たちは、先に触れた農業改革の過程で、その神聖な森を伐採していました。酒井は、ゴシック建築の背景に、こうした農民の自然への複雑な思いを見ます。確かに、垂直性を強く感じさせるゴシック建築の不思議な空間性は、森林に立つ身体感覚を想起させます。

ゴシック様式の大聖堂では、それに付随した彫刻や絵画も発展しました。彫刻面では、扉口の両側に置かれた人物像が、奥行きの浅い浮彫(レリーフ)から、よりリアルな丸みを帯びた丸彫像、いわゆる「円柱人像」へと展開します。また、ステンドグラスでは聖書に基づく説話図像が発展して、文字が読めない市民も多いなか、キリスト教の世界観の普及を支えました。同時に、図像構成に基づく彩色写本も多く作られます。絵画でも、中世後期にはチマブーエやジョット、ドゥッチョ、シモーネ・マルティーニなどが以前より自然な人物表現や三次元的な空間表現を洗練させ、ルネサンスに続く道を拓きました。

先述の通り、ゴシックはルネサンス期に一度は否定されますが、18〜19世紀にかけてイギリスを起点に「ゴシック・リヴァイバル」が起きました。アーツ・アンド・クラフツの回で触れた思想家のジョン・ラスキンはその動きを加速させた一人であり、彼から薫陶を受けたウィリアム・モリスや、その影響下にある造形学校バウハウスにも、多くの職人がひとつの大聖堂のために協働するというゴシック期の創造性の影響が見られます。この復興期の有名な建物には、ビッグ・ベンという時計台や英国議会の議事堂であることで知られる、ウェストミンスター寺院に隣接したウェストミンスター宮殿が挙げられます。

【参考文献】
隈研吾『新・建築入門――思想と歴史』(ちくま新書、1994年)
酒井健『ゴシックとは何か―大聖堂の精神史』 (ちくま学芸文庫、2006年)
熊倉洋介+末永航+羽生修二+星和彦+堀内正昭+渡辺道治『西洋建築様式史』(美術出版社、1995年)

 

杉原 環樹 
1984年東京生まれ。武蔵野美術大学大学院美術専攻造形理論・美術史コース修了。出版社勤務を経て、現在は美術系雑誌や書籍を中心に、記事構成・インタビュー・執筆を行う。主な媒体に美術手帖、CINRA.NET、アーツカウンシル東京関連。編集協力として関わった書籍に、卯城竜太(Chim↑Pom)+松田修著『公の時代』(朝日出版社)など。

(この記事は2023/11/3にNewsletterで配信したものです)

 

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