LOGIC MAGAZINE Vol.33

LOGIC MAGAZINE Vol.33

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今、読者の皆さんと一緒に考えたいと感じた
ホットなトピック



2023年 年末のご挨拶

本年はLOGICとLOGIC MAGAZINEをご愛顧くださり、誠にありがとうございました。



さて、2023年はLOGICの商品アップデートを実施いたしました。処方に加え、容量や価格も見直すことは大きな決断ではありました。実際リリースしてから、お褒めの言葉をいただく一方で、旧バージョンのほうが良かったとの声をいただくこともあります。そのような様々な声を真摯に受け止め、さらなる進化に生かしていければと思いますので、引き続きLOGICにご期待いただけると幸いです。


また、旧バージョンから愛用していただいている方々には、商品切り替えの際にご不便ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

来年も様々なアクティビティ通じて、一人でも多くの皆様にお役に立てるよう精進して参りますので、引き続きご愛顧の程、よろしくお願いいたします。

それではまた来年お会いしましょう。

良いお年をお過ごしくださいませ。



LOGIC代表 佐々木智也
 

 

LOGIC | PEOPLE


第一線で活躍するプロフェッショナルの体験や知見から
パフォーマンスアップにつながるヒントを学ぶ。
 



033
株式会社HARKEN
木本梨絵氏

LOGIC MAGAZINE第33回インタビューにご登場いただくのは、株式会社HARKEN代表の木本梨絵氏です。クリエイティブディレクターとして、これまで数々のブランドづくりに取り組んできた木本氏ですが、2024年からはギアを落とし、仕事をセーブしながら自分のために使う時間を増やしていくと決めたと話します。一体どのような想いがあるのでしょうか。(聞き手:LOGIC MAGAZINE編集部 佐々木、村上)

 

自分の人生に100%コミットするために。あるクリエイティブディレクターの決断

―木本さんは最近、仕事をセーブする宣言をされたんですよね。そこにたどり着くまでにどういった思考のプロセスがあったんですか?

木本:私には複数のクライアントがいて、それぞれにすごく面白いテーマを取り扱っているんですね。旅、日本文化、自然って。でも、同時進行で5つも6つもプロジェクトを進めていると、当然ながらひとつのテーマを深掘りする時間に限りがあって、本当は数十年かけても足りないくらいなのに数ヶ月で咀嚼しているような違和感があったんです。もちろん手を抜いているつもりはまったくないし、どのプロジェクトに対しても全力で向き合ってはいるんですけれど。

―それはある種、広告業界に携わる人の業のような気もします。

木本:誤解してほしくないのは、そういうクイックな働き方の全体を否定しているわけではないということです。よく仕事をしているヘラルボニーの松田崇弥くんに同じ話をしたら、「僕たちは障害や福祉のことを知りすぎているから、新しい展開がなかなか思い浮かばない。木本さんは深く知らないからこそ、斜め上の方角から自分たちにはないアイデアをくれる。それが価値だと思っている」と言われて、確かにそうだなって。なので、私が感じている違和感は極めて個人的というか。

―というと?

木本:この仕事をしていると、ひとつのことに突き抜けている人に出会うんです。この前も素材探求のために屋久島に行ってきたんですけど、そこで出会った花の栽培をしている人のこだわりが本当にすごくて。土づくりに5年かけたって言うんですよ。浜辺にあがってきた珊瑚を拾って土に撒いて、そのミネラルで微生物を育てているんだって。一方で、私はもっと短いタームでクイックにブランドづくりをしている。そのギャップというか、インプットよりアウトプットの量が増えていることが健全じゃない気がしてきたので、立ち止まってみようと思ったんです。それで来年は、ワーキングホリデーのビザが下りたデンマークで、写真を撮ったり、エッセイを書いたりしながらのんびり過ごす予定でした。でも、今年の夏にノルウェーとデンマークで過ごした経験を経て、それも白紙に戻しました。それでロンドンの大学で勉強することにしたんです。

―何があったんですか?

木本:現地ではノルウェー人とフランス人の友人と過ごしていたんですが、8月はベリーとキノコの収穫の時期だというので、みんなで獲りに行こうという話になったんです。ノルウェー人の友人の親戚が森のなかのキャビンを持っているというので拠点にして。それでキノコとベリーを採っては食べる生活を5日間ほど送っていたんですけど、次第に彼ら彼女らと自然との距離がものすごく近いと感じるようになったんです。みんな生物学者でもないのに、ベリーの見分け方やキノコの調理法を知っているし、森のなかを裸足で走っているから。そして、これまでの自分の認識があまりに閉鎖的であることに気づいてしまったんです。

―というと?

木本:日本人は好んで岡倉天心の『茶の本』や谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』などを読みますよね。そうすると、私たち日本人は自然と共存していて、西洋人はどちらかというと自然を統治しているような印象を持つ場合があります。

―自然と一緒に生きているのが日本の美点だというのは、よく聞く話かもしれません。

木本:でも、北欧の人々と過ごすなかで、彼らには彼らなりのフラットな自然との接し方があることを知ったんです。同時に、私はものすごく主観的かつ日本人的に、人と自然の関係を捉えてしまっていたんだなと反省して。もっと海外のいろんな国々と日本を比較しながら、客観的に各国の自然感や美意識を探求する必要性を感じるようになりました。それで旅の最中にどんな学校があるのかを調べはじめて、帰国後はクライアントさんたちに連絡して、志望する大学の受験もして、合格の通知が届いたのが11月という、怒涛の2ヶ月を過ごしたんです。

 

いつでも逃げられるのに、あえているのが好き

―木本さんとしては、大学でこれまで実践してきたことをもう一度学び直す感覚なのでしょうか。

木本:どちらかというと、ステージが変わると考えたほうがしっくりくるんですよね。東京編終了みたいな。もともと生まれ故郷の和歌山編からはじまって、大学生からが東京編。社会人になり、起業もして、自分が抱いていた小さな夢の数々みたいなものは、すべて叶えられた感覚があるんです。ただ、クリアしたゲームをずっと続けるのって面白くないじゃないですか。だがら、そろそろ違うステージに移って、ゼロから何かをはじめる時期に差し掛かっているのかなって。

―そうやって柔軟にステージを変えることができるのは何が大きいですか?

木本:独立してからの3年間できちんとお金を稼いだのがひとつ。ただ、この稼いだっていうのもあくまで私の尺度なので、世間一般的な規模ではないんですけれど。しばらく仕事を休んで学生に戻れるとか、好きな国に住めるとか、欲しいものを欲しいときに買えるとか、そういうスケールでの贅沢ができる状態にきたっていう感じです。それでもう十分。私は宇宙旅行に行きたいわけではないし、エルメスのバーキンを毎月買いたいわけでもないので。あと、HARKENに所属するメンバー3人は業務委託で、私以外に正社員がいないのも柔軟さのひとつになっています。

―木本さんは、一人のスタンスを崩さないところにユニークさがありますよね。

木本:いつでも逃げられるのに、あえてここにいるっていう状態が好きなんです。今回みたいにいつ変化したくなるかわからないですし。それは社員がいたらできないことじゃないですか。みんなの生活はどうするんだってなるから。

―会社を大きくしたいと思ったことはないんですか?

木本:ないですね。さっき私が東京編をクリアしたと言ったのは、会社を大きくしていくとか、賞を受賞するとか、そういうわかりやすい大成みたいなものを目指さないという前提でもあって。日本で有数のクリエイティブディレクターになりたいと考えていたら、東京編はまだまだ続いていたと思います。でも、そこに私の理想はないので。

―木本さんの貪欲さってどこにありますか?

木本:自分自身を幸せにすることですね。私の人生に100%コミットできるのは、私しかいないので。だから、自分が幸せになるためにできることはすべてやりたい。それもあって、仕事と少し距離を置きたいと思ったんです。もちろん仕事も大切なんですけど、どこかで自分の人生を誰かのために受け渡している感覚もあるから。

―どこかで自分が消費されている感覚があるんですか?

木本:というより、今の自分は100%幸せじゃないと思ったんです。たくさんの人と出会ったり、仕事をしたりしていると、ときに自分に合っていない環境に身を置かないといけなくなるじゃないですか。そうすると、苦しかったり、悲しかったり、憤りがあったりっていう負の感情と向き合わないといけなくなりますよね。そこは大人なので、これまではどこかで割り切って感情に蓋をしていたんです。でも、そうやって我慢するのをやめて、思い切って手放すことにしたんです。これはやりません、これは私には合いませんって。仕事だけではなく、プライベートも含めて。あらゆることを手放しました。

―身辺整理をしたんですね。

木本:私の師匠であり、友人でもある、インテリアデザイナーの片山正通さんが「大事なのは健康と友達」っていつも言うんですよ。本当にそうだなって。その2つがあれば、大抵のことはなんとかなるんですよね。

 

12年後の自分を想像しながら書いた予言書

―そういう取捨選択ってどうやってしているんですか?

木本:未来の自分が今の自分を見たとき、「いいじゃん」と言うか「違うよ」と言うかを想像しながら判断することが多いですね。実は、12年後にどういう人間になっていたいのかを予言書としてまとめていて。

―それはどういったものなのでしょうか?

木本:去年の8月に高野山に登ったんですね。空海で有名な。そこで「人間の人生は等しく12年区切りなんだ」っていう話を聞いて。しかも2022年の12月22日までが12年の区切りらしく、12月23日からは新しい12年がはじまるということだったので、せっかくだから理想の自分について書いていくことにしたんです。たとえば、「蓄積と余裕のある魅力的な女性でありたい」「自分ひとりの自由な時間を謳歌する」「連載や執筆の仕事を複数持っている」「本を毎月5冊読んでいる」「人を待つときの非効率なもどかしさにイライラしない」とかって。

―すでに実現できていることもありそうです。

木本:そうなんですよ。だから、何か思うことがあったら更新するようにしています。あと、こんなことも書いていました。「HARKENには、『耳を傾ける』という意味がある。起業した頃、この言葉は誰かへの傾聴の意味を持っていた。けれど、空海の前で気づいたのは、もっと自分に傾聴すべきであるということだった。それは利己的になりたいというわけではなく、自分の人生の当たり前の基盤を今一度いちばん大切にしてあげるということである」って。これは去年の8月に書いたことなんですけど、今そのとおりになっているから書き記すってやっぱり大事なんですね。

―どんどん自分の内側に向かっているのが面白いですね。

木本:80歳の私にクリエイティブディレクターとしての仕事を頼む人は少ないかもしれないけれど、素敵な文章を書いたり、写真を撮ったりする人には何歳になってもなんらかの声がかかると思うんです。いつまでもそういう自分でありたいんですよね。そのために、これからの時間を費やしていきたいなって。

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木本梨絵さんのパフォーマンスアップのためのルーティーン


「季節のものを拾う」

石とか葉とか、道端に落ちているものを拾って理想の風景をつくると、そのなかに小さな季節が生まれて、自分のリズムが整っていくんです。そういう行為に時間をかけられるくらいの心の余裕がないと、良い仕事はできないと思っているので大切にしています。

「写真を毎日撮る」

筋トレをしないと筋肉が落ちるのと一緒で、美意識もトレーニングをしないと日々落ちていくんですね。自分がどんなものに美しさを感じるのかを確認するためにも、何かしら写真に収めるようにしています。

 

木本梨絵さんのおすすめのワークツール


「お灸」

体調不良で悩んでいたときに、パリにある「OGATA」の茶房で働く友人からおすすめされて使ったら、ものすごくよくて。それ以来、愛用しています。いつも夜になると蝋燭に火をつけるようにしているのですが、そのタイミングで一緒に。

 

 

LOGIC | CULTURE


教養としてのカルチャーを楽しみながら学ぶ。


「ビジネス映画学」第8回

『セレステ∞ジェシー』

 自分の思い通りにビジネスを進めたいなら、まず主導権を握ることが大事だとしばしば言われます。たとえば、アメリカのギャングスタラッパーたちがよくリリックで言及するビジネス書『権力に翻弄されないための48の法則』では、まさに権力、つまり人間関係において主導権を上手に握る方法が、古今東西の名言や挿話を通して解説されています。確かに、一面では真理でしょう。しかし、固執しすぎれば、自分の首を絞めることにもなりかねません。それを教えてくれるのが、『セレステ∞ジェシー』です。

 本作は、セレステとジェシーの夫婦をめぐるラブストーリーです。2人はまるで親友のように仲睦まじいのですが、なぜか離婚するといいます。仲違いをしたわけではありません。自宅とその離れで名ばかりの別居はしているものの、むしろ毎日のように会ってじゃれあっています。いったい2人の間に、何が起こっているのでしょうか。

 実のところ、離婚を提案したセレステにしても、本気で別れたいわけではありません。彼女の腹のうちはこうです。ジェシーはイラストの才能があるのに、いつまで経っても本腰を入れず、のんべんだらりと暮らしています。しかし、いくら注意しても暖簾に腕押しです。これでは、いつか欲しいと思っている自分の子供の父親としては頼りありません。そこで離婚という切り札をチラつかせ、一念発起してもらおう。どうやらセレステにはそんな思惑があるのですが、それに気づかないジェシーは、彼女の意見を尊重したい一心でしぶしぶ受け入れている、というのが実情のようです。

 要するに、セレステはあらゆる物事において常に自分に主導権があり、いかようにもコントロールできると思っているわけです。ジェシーが他の女性とデートすることを積極的に後押しできるのも、「どうせ最後は自分の元に帰ってくる。なぜなら、自分よりジェシーに相応しい相手なんて他にいないから」と、彼を手の平で踊らせている意識があるのでしょう。こうした性格は、彼女のビジネスを通しても示唆されます。彼女はトレンドを予測するコンサルティング会社の共同経営者として大成功を収めているのですが、それもまた、自分や会社が主導権を握り、「これが次のトレンドです」と真実か否か定かじゃないことを大衆に信じ込ませ、コントロールすることが大事だからです。

 しかし、ある日突然、ジェシーが以下の発言をしたことにより、彼女の人生の歯車がにわかに狂い始めます。いわく、「子供ができた。だから、離婚してほしい」。ジェシーが3ヶ月前にデートした女性の妊娠が発覚したというのです。これにより、離婚は単なる駆け引きの道具から、避けられない事態へと発展していきます。

 さらに悪いことに、セレステはビジネスの場でも辛酸を舐めることになります。彼女はとある若い女性歌手のプロモーションを担当することになるのですが、ようやくリリースできた直後、ターゲットと定めていた女子児童の母親を中心に大炎上してしまったのです。なぜなら、自ら手掛けた抽象的なロゴが”男性同士の性行”を彷彿とさせたから。ジェシーのデート相手が妊娠したことも、単なるロゴが別の意味を持ってしまったことも、意図的なものとは言えません。この経験を通して、彼女はこの世界にはコントロールしきれないもの、つまり「偶然」の存在を思い知るのです。

 しかし、物語はそれで終わりません。あるとき、例の女性歌手と男性同性愛者たちの集まるクラブを訪れると、そこでは女性歌手がディーバとして崇められ、炎上したロゴを自分たちのシンボルマークとして身につけているではありませんか。「偶然」によって窮地に立たされた彼女は、「偶然」によって救われたわけです。その後、歌手のターゲットを女子児童から男性同性愛者へと切り替えることで難所を乗り切った彼女は、「偶然」を受け入れる能力を身につけ、最後まで反対していたジェシーの再婚を認めることができます。

 ビジネスにおいては、どれだけ人事を尽くして主導権を握っても、「偶然」が入り込む余地まではどうすることもできません。コントロールすることに固執しすぎると、そんな「偶然」によって自分の思い描いていたプランから風向きが変わったとき、セレステのようにすぐ対処できなくなってしまうでしょう。しかし、どう転ぶかわからないのだから、必要なのは、それを面白がる心意気なのかもしれません。


 

鍵和田 啓介
1988年生まれ、ライター。映画批評家であり、「爆音映画祭」のディレクターである樋口泰人氏に誘われ、大学時代よりライター活動を開始。現在は、『POPEYE』『BRUTUS』などの雑誌を中心に、さまざまな記事を執筆している。

(この記事は2023/12/293にNewsletterで配信したものです)

 

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